小説 川崎サイト

 

昼食

 
 いっときの気分や感情で動き、何をするにも尻切れ蜻蛉になってしまう研究室の竹田は、そのことを室長に聞いてみた。
「そんなことは研究対象にはならない」と、簡単に退けられた。
「ここは人生相談の窓口じゃないし、それにそんなことは人生という規模じゃないでしょ。竹田君」
「いえ、そういうことで人生が決まるのではありませんか。何事も長続きしないし、すぐによそ見をして、別のことをやり始めるのなら、その後の人生に影響しますよ」
「続ければいいのですよ。単純な話でしょ。答えは簡単。はい、これで終わりにしましょう。そろそろ昼だ。今日は弁当を頼んでいないので、外に食べに行くが、君はどうだ。頼んだかね」
「いえ、予約していません。いつも似たようなものしか入っていないので」
「じゃ、食べに行こう」
 室長と竹田は飲食店に入った。
「ここも似たようなものだね。またフライものになりそうだが、まあ、いいさ。今日はミックスフライにする。竹田君、君は」
「ビーフカレーにします」
「ここのビーフカレー、肉なんて入っていないよ」
「かけらが入っています。たまに大きな塊が入っていたりしますから、値段のわりには得なんです。きっと切り忘れたのでしょうねえ」
「君も良くここに来るのかね」
「たまにです」
「今まで顔を合わせなかったのは不思議だね。そういう日があってもいいのにね」
「そうですねえ」
「いつもは何処に食べに行くの」
「配達の弁当の方が本当は多いですよ」
「そうなの。私は食べに出る方が多い」
「この店が多いのですか」
「いや、ファスト系の店にも行くよ。しかし、普通の洋食屋のほうがいい。チケットとか、面倒なものを買わないといけないしね。食券だったかな。それに比べるといつもの弁当屋の方がましだ。まあ、食堂が一番いいねえ。この店のように。座っているだけでいい」
「そうですね」
 カレーが来た。
「どうだね。肉のアタリが入っていたかね」
「いえ、スカでした。しかし、見落としているのかもしれません。もう少しサルベージが必要です」
「ここのカレーライスは福神漬けだけではなく、ラッキョウも入っている。それがいいねえ」
「そうでしょ。僕はラッキョウ派です」
「ここのミックスフライ。キャベツが多いんだ。それでボリュームがあるように見えるがね。海老フライは細いし、白身魚も薄いし、カツの肉も硬い。しかし、どれも一つ一つは小さい。だから気にならない。大きいと駄目だがね。逆にね。中のものが悪いとね」
 二人は食べ終えた。
「食後の珈琲はどうだね。私はいつもそうしている。でもこの店じゃないよ。喫茶店で飲む」
「はい、ご一緒します」
 竹田は、例の問題を切り出したかったのだが、喫茶店内でも雑談で終わった。
 
   了



2022年10月20日

 

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