小説 川崎サイト

 

人物評

 
「重森さんはどうですか」
「あの人は癖がある。予想出来ないことをやる。これは臭い」
「富田さんならいいのでは」
「実力のある人だ。だが、強引さがある。押しが強い。だから実行力もあるが、何かをやりたいだけの人でね。頭が今一つ」
「頭一つ抜きん出ていると」
「いや、頭に抜けたところがある。これが怖い。配慮に足りないところがあるのでね」
「岩田さんはどうですか」
「富田さんの反対だ。気が弱い。体つきも声もか細いのでね。内ではいいが、外では、あの弱さは、弱いね」
「倉橋さんや高田さんは」
「まだ若い」
「じゃ、いないじゃないですか。これといった人が」
「残るのは岸本さんだな」
「いましたねえ。目立たないので、分かりませんでした。かなりのベテランですよ」
「岸本さんは何を考えているのか分からないが、それほど極端なことはしない。悪く言えば花がない」
「男ですから、なくてもいいのでは」
「そうだが、魅力がない。それに人を引き付ける力がない。そこにいるだけの人だよ」
「だから、候補には上がりにくいのですね」
「キャッチフレーズがない」
「別に売り物じゃありませんよ」
「個性がない」
「しかし、今、上げた偉いさんの中では、岸田さんしか残っていないじゃないですか」
「他の偉いさんは帯に短く」
「たすきに長し、ですか」
「いや、どこか不安定なところがある。岸田さんにはそれがない。それだけの人だ」
「じゃ、岸田さんしかいないようなので、そうしますか」
「岸田さんがいいからじゃない。岸田さんしか残っていないだけ」
「非常にいいお話、有り難うございました」
 ビジネス街の喫茶店。今の話などは誰でも知っていることだ。
「流石御意見番。よく見抜いておられる。感心しました」
 彼も、そんなことは、分かりきっていることなので、聞かなくてもいいような話。
 その人は、人を比べたりするのが好きで、それを話したことで、満足だったようだ。そして彼も偉いさんなのだが最初から候補には上がっていなかった。
 
   了



2022年10月23日

 

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