小説 川崎サイト

 

相対皺

 
「物事は相対的に決まる」
「そう簡単には決まらないと言うことですね」
「違う。相対的にだ」
「でも、簡単には決まらないと言うことでしょ」
「いや、相対的に決まる」
「決まるのですか」
「そう、決まる」
「そう決まるのですね」
「そうだ」
「しかし、世の中のこととか、万事において、そう簡単には決まらないでしょ」
「まあな」
「それよりも相対なんて言葉よく知らないで使ってますし、日頃からも使っていませんので、何のことだか分かりません。大体は分かるんですがね。大凡なら。その程度です」
「二つのものがある。その関係でなり立つことがある」
「三つは」
「三つ巴もありじゃ」
「じゃ百は」
「多いなあ、それは比べにくい」
「相対的って比べることなのですか」
「それもある」
「じゃ、他にも色々とありそうですね」
「そうだ」
「じゃ、知恵比べなんかも相対的なんですね。これって、比較とかの方がいいんですがね」
「勝ち負けの問題ではない」
「でも、それって、誰でも知っていることでしょ。そんな言葉、使わなくても、普通にやっていますよ。安いが物が悪いとか」
「買い物の話ではない」
「でも、比べ合ったりしますよ。比べてみて、よりよく分かったり。正体が分かったりとか、そういうのは普通にやっていると思うのですがね。何も眉間に皺を寄せてすごい声で言うようなことじゃないでしょ」
「まあ、そうなんだがな」
「相対の反対は何ですか」
「絶対だ」
「比べないのですね」
「そうだ」
「色々比べてみて、これが絶対に良いっていう絶対ですね」
「だから、買い物や選択の話だけではない」
「絶対にこれは正しい、とかもありますね。これも色々試したりした結果の答えのようなものでしょ」
「それも相対化される」
「そう退化されるのですか」
「君は、無理にそんなことをいっている」
「バレましたか。でも相対的に世の中が決まるというのは絶対的なことなのですか」
「そうだ。相対的に決まるというのは絶対に正しい。あ、違う。それでは絶対になってしまう」
「相対的に決まったことも絶対的なことじゃないと言うことですか」
「あのね、君、私の眉間の皺が増えるのを見るのが好きなようじゃな」
「あまり考え込まないでください。眉間の皺から血が出ますよ」
「う、うん。絶対にそうなる」
 
   了
 



2022年10月29日

 

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