小説 川崎サイト

 

安楽椅子

 
 ゆりかごのような椅子に座り、暖かい暖炉の横で色々と思案している人がいる。外に出ることは希で、必要最小限。
 この岩田氏は世の中のことは知らないで、ただ単に考えているだけの人だと思われているが、実際には若い頃、色々なところへ行き、見聞を広めている。
 また実際に行動も起こし、決して座したままの人ではなかった。そういうことを終えた後、じっくりと落ち着いた場所で、深い思案に入ったことになる。
 別に瞑想をやるわけではないが、妄想はたまにする。少し過激になり、横道に入り、もう現実との繋がりが消えるようなところまで思案の穴を掘ったこともあるが、想像の翼を広げるには、これは結構楽しいものだ。
 外には出ないが、妙な世界に入り込む。当然頭の中での話なので、ただ単に思っているだけ。
 しかし、ありありとそれが浮かび、まるで現実のように感じられる。ただの妄想なので大したことはない。ありそうな妄想なのでだが、ついつい寄り道となる。
 また、最初から空想の世界なので、あるわけではない。ただ、岩田氏自身はあるように思うのだから、リアリティーがあるのだろう。
 ただ、それは空想であると、最初から分かっているので、それだけのことだが、この寄り道は外に出て世間を見ているよりも、興味深かったりする。
 それに若い頃、もう充分見てきたので、もう良いのだ。
 落ち着いた場所。リラックス出来る場所で室温も適温で、それなりに過ごしやすく、また体調もいい時に限り、考え事をするようだ。
 既に色々なことを断片的に考えているので、それらを整理したり、まとめたりしている。
 安楽椅子に座っているので、そこで書きものなどはしない。書くのは纏まってから。
 そのため、安楽椅子で寛いでいるだけの人のように見られてしまうが、滅多に客など来ないし、それを覗く人もいない。
 岩田氏はまだ若い。中年に差し掛かったばかり。そのため、油に乗り切っている。だから、はしょりすぎて、考えが脱線することもある。それを抑えるのが大変なほど意欲的に過ごしている。ただ、見た目は安楽椅子に座っているだけなのだが。
 岩田氏はもうかなり昔の人で、今とは社会も違うのだが、そんな悠長なことが出来た時代の人。
 
   了


 


2022年11月1日

 

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