小説 川崎サイト

 

急な選択

 
 急にどれかを選ぶことになった。谷口はその時ではないし、その気持ちもなかったのだが、今すぐ選ばないといけないことになる。
 それはじっくりと選ぶべきもので、そこには選ぶ楽しさもある。選ぶ順番もある。これはこれで選択の楽しさのようなもので、その対象には紐が付いている。
 つまり意味の流れが。難しい話ではなく、先入観に近い想像上の物語のようなもの。それは谷口だけに当てはまる筋立てで、それまでの蓄積で、そんな道筋が出来ている。
 記憶とか、履歴とかだが、そこにはメインの道があり、これが本道。
 しかし、本道だけでは何なので、枝道や横道、または、とんでもないところへもたまに行く。決して一本道ではないが、枝道も本筋と関連している。
 そのため、本筋の流れが変わると、枝道の流れも変わる。今までは行っていかなかった小道に分け入ることもある。それだけ本筋の影響が強い。
 さて、急に選択を強いられたのだが、それは、しなくてもいい。落ち着いて熟考した方が良いはずだが、なかなか決まらないことがある。
 だから、急な選択、急な決定も満更悪くはない。今までの状況、今の気持ちなどが後押ししてくれるかもしれない。
 頭で考えるのではなく、とっさの選択の方が、より本質に近いのではないか。
 と考えたが、メインの本筋のことなど忘れて、いきなりそれに準じるもの、それの親戚とか兄弟とか、近いものを選んでしまった。
 後で考えると、これは考えが足りなかったことになる。どうしてそれを選んだのかの理由が弱い。他に、もっと良いものがあったはず。一番、賢いのは本筋に沿ったものも選ぶことだった。
 しかし、その余裕がなかったので、とっさに選んだのだ。これでも良いかと。
 さらに後で考えると、そういう選択方法もあることが分かった。決してランダムではない。偶然選んだわけではなく、ある範囲内に入っているうちから選んでいるので、本筋とも関係するはず。
 とっさの時、本質が出ることもあるが、それほどの緊張した状態ではなく、危険な状態でもないので、隠れていた本質的なものがむき出しで出てきたわけではない。これでもまあいいかレベルの軽いもの。
 本筋、本街道。メイン。王道。いずれも谷口から見た世界で、谷口にとっての本街道。だから、それは世間とは違うが、似たようなところを通っている人も結構いる。
 それは選択肢の中に入っているため、選ぶ人がいることで分かる。
 それで、選択の失敗だったのかもしれないと思うものの、よく見ると、その選択、それほど悪くはなかった。
 そう思いたいだけの話ではなく、急いでとっさにでないと選ばないほど圏外に近かったのだが、選ぶことが出来た。圏外に近いが、安全圏。望んでいない選択ではない。
 辺境のものを選んだことになるが、ゆっくりと、落ち着いて考えれば、決して選ばなかっただろう。
 また、失敗したとしても、本気で選んだわけではないので、後悔も簡単かもしれない。
 
   了



 


2022年11月4日

 

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