小説 川崎サイト

 

妖怪紡ぎ

 
「昔に比べて、妖怪が少なくなりましたねえ。それに出も少ない」
「昔とはいつ頃かな」
「平安時代などが多いとか」
 妖怪博士と担当編集者が雑談している。
「それで、今は、出も少ないか。まあ、そうだろうねえ」
「はい、一説には退治されたためとか」
「それで出なくなったのか」
「それと、出そうな場が減ったためとか」
「里が町になり、深夜でも明るいからなあ」
「そうです。家の中も明るいです。部屋の隅の暗がりなどが減っていますし」
「電気を付ければ明るい。だが、消して闇にすれば出るわけでもない」
「電気を付けられると、落ち着きませんからねえ。ずっと暗い場所の方が良いのでしょうねえ」
「妖怪にも都合があるのじゃな」
「そうです。それで、妖怪とか化け物とかは、もう退治されたようなものとか」
「よく調べておるなあ」
「はい、それと外に出る妖怪は退治されたが、内に出る妖怪が、今度は増えたとか」
「内とは、家の中か」
「内面のことです。心の奥」
「ほう、そこに来るか。それでは共有出来んな」
「何がですか」
「だから、妖怪の共有」
「ああ、そうですね。その人の心の中を覗かないといけませんし、そんなもの見えないですからね」
「本人は見えるのかな」
「ややこしいものが沸きだっているとか」
「ああ、いずれも個人的な体験じゃな。まあ、似たような体験をする者もおるだろうが、捕らえにくいなあ」
「そうなんです」
「虎馬などがそうかもしれん」
「トラウマですか」
「虎と馬が合体した妖怪でな。馬は暴れ馬。じゃじゃ馬。邪々馬かもしれん。虎はよく分からんが、まあ怖いだろう。海馬もいる。心の中の妖怪、訳が分からぬ」
「だから、外に出る妖怪は貴重なんです。もの凄く分かりやすいので」
「そうじゃな」
「最近の妖怪は個人が湧かしている妖怪を外に出たのですよ」
「何を」
「ですから、内面のものを妖怪として、外に出す」
「あ、そう。よく分からんが」
「気持ちや行動が鬼の如し、というのがあるでしょ。あれですよ。内のものが外に出ているです」
「ああなるほどな。しかし、実際の鬼ではない。だから、出ておらん。その人が鬼の形相ではなく、鬼にならないとな」
「だから、鬼のような、ということです」
「分かった。分かった」
「でも妖怪はオモチャのようにいくらでも作れるでしょ。ですから、そのタイプの妖怪は結構いますよ」
「私も妖怪を作るが、これは作らん方が良い。じっとそのままでも発生するかもしれんからな。無理に捻り出すよりも」
「で、次回の妖怪なのですが」
「妖怪紡ぎはどうかな」
「何ですか」
「妖怪を作る妖怪の話じゃ」
「妖怪発生装置のような妖怪ですか」
「まあ、そうじゃな」
「それは、また、いつかやって下さい」
「そうか」
「はい」
 
   了




 


2022年11月5日

 

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