小説 川崎サイト

 

柿の影

 
 村の辻。今はもうそんな村時代ではないが、その頃に出来たのだろう。祠がある。石造りで丈夫そうだ。
 石田はそこで地蔵盆があるのを知っていた。毎日のようにその裏道を通るため。
 少し遠回りになるが、表道よりも、村の路地伝いに行く方が景色が良い。
 大きな農家の庭が見える。ブロック塀で内側までは見えないが、二階の窓などはよく見える。そこに立派な庭木が立っており、二階の屋根まで届いている。松の木だ。
 この手入れが大変だろう。植木屋が高い枝を切っているのを見たことがあるが、重機は使わない。背の高い脚立でも無理な高さなので、櫓を組んでいた。しかも美観を損ねないような良い枝振りを作りながら。
 その先にある辻。四つ辻になっており、そこに先ほどの石造りの祠。地蔵盆の時、石田は中を見たことがある。
 扉がその日に限って開くのだろうか。しかし、地蔵菩薩ではなく、愛宕さんだった。まあ、火の用心とか台所の神様のようなものだが、なんでも効くようだ。
 その愛宕さんには形はない。文字が書かれているだけ。御札のようなものだ。
 だから一般的な愛宕信仰と同じ。祠の横には石饅頭が並んでいたりする。石仏ではない。
 石田は上を見る。横にある農家の庭と面しており、そこから伸びた柿の木があり、怖いほどの数の実が付いている。まさに数珠成り。
 柿を珠にして数珠が出来るかもしれない。柿の何処に穴を通すのだろう。つるし柿なら出来る。まさに串刺しだ。これは正月までに出来ればいい。食べるのは正月になってから。
 隣家の小屋に柿の木が写っている。葉も、枝も。本体はすぐ横にある。
 しかし影の方が神秘的。色はない。実体はすぐ横にあるのだが、それよりも、影の方が良い感じで見える。
 石田はその影をじっと見詰めていた。風があると揺れる。影絵を見ているようなものだが、影の方が引き付けるものがあるのだろうか。
 実体を見てしまえば何でもない小さな柿で、おそらく渋柿だろう。雀も来ていたようだが、石田が柿の木に近付いた時、逃げてしまった。
 まだ硬そうな柿、雀のクチバシで果たして突けるのだろうか。しかし、青い時には来なかったように思える。色付き、赤くなりだせば、もう食べられるのかもしれない。突けるので。それなら、鳥は色が分かるのだろうか。
 柿の影を祠の横で見ている石田。祠から何か聞こえてきそうな気配がしたが、気のせいだろう。
 
   了




2022年11月7日

 

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