小説 川崎サイト

 

妖怪座敷爺

 
 羽織袴で逆三角形の大きな頭で、顔はしかめ面。切れ長の大きな目だが、その切れ方が吊り上がっているので、いつも怒っているよう。
 瞳は意外と大きく、そこだけは幼子。
 岸田氏が洋間を出て和室の襖を開けた時、それがいる。八畳の間だが、縁側があり、岸田氏は庭に出る時、その部屋を通る。洋館風な屋敷で、書斎にしている洋間からなら、そこを通る方が早い。
「その八畳の和室。畳敷きですかな」
「そうです」
「他に畳敷きの部屋はありますか」
「奥の四畳半がそうです。仏間です」
「八畳の間と仏間は繋がっていますか」
「はい、襖一枚です。法事などの時は開け放っておこないます」
「誰なんでしょうねえ」
「その妖怪ですか」
「はい」
「座敷爺かもしれません。まあ、子供じゃないし、大人にしても、年齢は高そうなので、老人かもしれませんね。で、頭はどうですか」
「わしのかね」
「いえ、その妖怪の頭」
「逆三角形の大頭です」
「毛は」
「ありません」
「眉の色は」
「黒くて長いです」
「髭は」
「ありません」
「妖怪も髭を剃るのですな」
「そう言われれば」
「見覚えのある人ですかな」
「何処かで見た覚えがあるような気もしますが、特定出来ません」
「座っている?」
「はい、襖を開けると、八畳の中央付近で、こちらを向いて」
「座っていても背の高さや体格は分かるでしょう」
「分かります。痩せていると思います。肩は撫で肩です。背は分かりませんが、小柄だと思われます。座高だけが高い人ではなさそうです」
「始終出るのですか」
「庭に出る時なので、一日に一度か二度、その部屋を通る時に見かけたり、見かけなかったり」
「どのぐらいの確率ですかな」
「さあ、数度に一度もありません」
「では十回に一度とか」
「もっと少ないです」
「週に一度とか」
「半月に一度、あるかないかです。それに庭に出ない日もありますので」
「じゃ、その座敷爺はずっとそこで座っているわけではないようですな。しかし、何用で、そこにいるのかは分かりませんか」
「わしにも見当が付きません。因果関係の外だと思われます。それで、これは何かと思いまして、博士をお呼びしたのです」
「座りに来たのでしょう」
「どうして」
「人がいる家で、滅多に人が入ってこない部屋。そこが狙い目なのではありませんかな。空き屋ではなく」
「広い家ですが、みんな出ていき、わし一人になった」
「息子さん達は」
「そっちへ来いというのですが、ここがいい」
「余計なことを聞きました。お子やお孫さんが来ることはありますね」
「息子の嫁がたまに来る程度。あとは電話です」
「お食事は」
「外食です。出前を取ることも多いですし、出来合いの弁当やお菓子も多いです」
「お菓子」
「はい、甘いものが好きでして。これは欠かせない」
「余計なことをお聞きしました」
「それで、その妖怪、座敷爺ですが、出なくなる方法はありますか」
「ありません」
「何とかなりませんか。原因が分からない」
「だから解決方法も分からないわけです」
「そうですか。でも博士なら、そこんところを何とかしてくれるとお聞きしたのですが」
「まあ、私を呼んだりとか、騒がないことです。座敷爺の思うつぼかもしれません。相手にして貰いたいのでしょ。座敷で座りたいのなら、いくらでも空き家があります」
「では、方法は、相手にしないことですか」
「庭へ出る時、襖を開けて爺がいたとしても無視することです。これが効くと思いますよ」
「それだけですか」
「はい」
 
 その後、妖怪博士宅に現金書留が届いた。
 その方法を二回か三回使った結果、もう出なくなったとの手紙とお礼が入っていた。
 
   了




2022年11月8日

 

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