小説 川崎サイト

 

魔界入り

 
「吉峰神社の神主が魔界に入ったらしいぞ。これは祝うべきか、呪うべきことなのか、よう分からん」
「坊主のように悟りを開いたのではないのか」
「神主もか。あまり聞いたことはないが」
「で、どんな魔界だ」
「神様と交流出来るらしい」
「神主なのだから、日頃からやっていることだろ。そのための神主なのでな」
「その神様というのが妙な神様らしい」
「あの神社、御神体は何だった」
「ああ、スサノウノミコトじゃ」
「じゃ、スサノウさんと交流しているのか」
「それは看板でな。本当はこのあたりの土地の神様じゃよ」
「ああ、地神か」
「お参りに来る人も、その地神様、これはこの村の氏神さんでもあるのだが、まあ、村神にしておるだけ」
「じゃ、その村神さんと交流出来たのか」
「だから、普段からやっておるので、それは珍しくはない。その村神さん、つまり土地の神様じゃな、それとは違う神さんのようなものと交信出来るようになったとか」
「お筆先か?」
「違う、そんなものを使わなくても、話が出来るそうじゃ」
「どんな神さんと話しているんだ」
「それがよう分からんが神様のようなものと言っておるだけなので、得体が知れん」
「狐か狸にからかわれておるんじゃないのか」
「本人曰く、魔界だそうだ」
「魔界」
「そこには色々とややこしいものがおってな。その一つと交信しておるらしい。それで、色々な話を聞いたとか」
「どんな」
「遠い昔の話なので、何かよう分からん。この世の始まりとかな」
「それで、神主は無事か」
「ああ、普段通りやっておるので、心配はいらん」
「それは、わしらとどう関係する」
「せん」
「そうだな。魔界なんて知っても役に立たんしな」
「今度、その神主、魔界へ連れて行ってもらうらしいよ」
「何処にあるんだ」
「さあ」
「戻ってきたら、また話が聞けるので、そのとき話すよ」
「ああ、楽しみにしているよ」
「じゃあな」
「ほい」
 
   了





2022年11月11日

 

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