小説 川崎サイト

 

孤高

 
「平田氏は好きなことを言い放題なのですが、それでいいのですか」
「あの人が何を言おうと問題はない」
「しかし、聞き捨てならぬことを大声で」
「声が大きい人だ。それに声が高い。声高」
「でも、誰も何とも言わないのはどうしてでしょう。特別な人物なのでしょうか」
「まあ、別だろうねえ。平田氏は一人だ。孤立しておる。だから憚らずに発言出来る」
「そうですねえ。何処にも所属していませんねえ。私達は仲間内の配慮もありますので、滅多なことは言えません」
「わしらの仲間内の発言だと取られるので、気を遣う」
「そうです。でも自由奔放に好きなことが言えるのは良いですねえ。羨ましい」
「吠えているんだよ」
「私も吠えてみたいですが、それでは仲間内の人達に迷惑がかかります」
「そうだね。同じ派閥内でも温度差があるからね」
「平田氏はどうして一人なのですか」
「いや、平田派のようなものはある。ただし、何処にも所属出来ない連中が懐いているだけ。平田氏は懐が広いからね。全部受け入れる。しかし、ろくなのはいないよ。他の派閥には入れないような変わり者が多い。または、なり損ねとかね」
「平田氏もそうなのですね」
「そうだね。平田氏も何処かの派閥に入りたかったんだろうねえ。しかしアクが強いので、入れなかった」
「じゃ、平田氏は無視していいのですね」
「いちいち彼の言うことを真に受けぬことだ。あの真は、魔だからね」
「じゃ、いつまで立っても少数派ですか」
「少数と言うより、平田氏一人だ。その子分など取るに足りぬ」
「私は、今思ったのですか、平田氏に近付きたいと思います」
「何じゃ、それは」
「一寸変わったものを囓りたくなったので」
「平田氏は変わったことをしているんじゃない。むしろ正統派だ。しかし、それではただの理想に終わってしまう。現実は別だ」
「良いですねえ。そういう空想の世界も」
「まあ、そこから見れば、わしらがやっていることなど邪道なんだろうねえ」
「そうなんだ」
 
   了



2022年11月14日

 

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