小説 川崎サイト

 

平衡感覚

 
 一寸良いことがあった翌日、桜木は良い気分だった。
 今度、その一寸した良い事が起こるとしても明日ではない。もう少し日を置いてから。それに一寸良いことは毎日は望んでいない。
 特にその翌日は、もう普通でいい。昨日の余韻がまだ残っているので、すぐに次のが来なくてもいい。これは良いことだけに注目しているが、その裏で悪いこともやってくるだろう。
 これは災難のようなものだが、桜木が原因の因果応報。しかし、これもクリアすると、ほっとする。
 それで桜木は一寸良い気分の原因を考えてみた。すると、積極的に何かを望むのではなく、そういった望みなりが、それ以前の段階であることを知る。
 足りないものを満たしたいとかだ。なぜ足りないのかは色々と理由はあるだろうが、そうなってしまったのだから、これはもう仕方がない。
 そのため、純粋に良いことを求めているわけではない。それなりの欲求が背後にある。
 桜木はそれをバランスではないかと考えた。バランスを取ろうとする動きなのだ。目先の良いことではなく、バランス的に必要なのではないかと。
 桜木は常にアンバランスで不安定なわけではないが、そこは目を瞑っているのだろう。そういうものだと。しかし、何処かでチャンスさえあれば、バランスを良くしたい。
 一寸良いこととは、それに関係するのかもしれない。だから良いことがあった翌日は、バランスが良くなったので、もうそれほど望まなかったりする。
 また、どうしてもバランスを保てないこともある。全部ではないが、そこはどうしようもないこともある。それで、その代わりになるようなものを探したりする。
 そして諦めていたことが何とかなる。代わりのものでもいいのだ。なくしたものが戻ってくる。それに近い。
 平衡感覚。これだな、と桜木は考えた。考えなくても自然にやっていることなのだが。
 欠けたものを補充する。過剰なものなら、減らす。そういう当たり前の事で、言うほどの事ではなかったが、このバランス、本人にしか分からない。
 
   了
 

 

 


2022年11月19日

 

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