小説 川崎サイト

 

絵空事

 
 新たな希望になるのではないかというようなものの芽生え。竹田は始終それを感じているのだが、そのものが、そうなる可能性は低い。
 しかし、見落としたり、見過ごしていると、いつの間にかその芽が大きくなり、抜きんでた存在になることも知っている。
 そのときは慌てる。もっと初期のうちから接していた方がよかったのではないか。それは既にある出来ものよりも、その段階を順を追って追いかけている方が、より親しみを覚えるため。それで親近感が湧く。
 たとえば幼友達が大人になり、竹田も大人になり、そこで初めて大人になった二人が出合ったとき、初対面ではない。あの子がこうなったのかというのが含まれる。もし、そんな繋がりがなければ、何も知らない初対面。
 幼友達なので面影が少し残っている。たとえば笑ったときは子供時代と変わらなかったりする。
 だから初期のうちに目を付けていたものをずっとマークし続け、追いかけている方が好ましい。
 竹田は以前からそれをやっていたのだが、外れが多い。最初は良いのだが伸びなかったり、途中で消えてしまったりする。それがあるので、先物買いのリスクは大きい。
 これは決して穴馬狙いではない。もしかすると次世代のトップになる可能性のある本格的な王道狙いなのだ。
 その兆しがあると踏んでいたのだが、そこまで行くはずはないと無視していたのだが、やはり気になる。
 それで、その後、どうなったのかと調べると、順調に伸びている。しかもテンポが早い。これは、もしかすると、行くのではないかと思うほど。しかし竹田はそこまで注目していなかったのだ。途中で消えると思っていた。
 しかし続いている。これが逆に竹田にとってはショックだ。竹田の勘が外れていたわけではないが、大きな関心はなかったので、無視したようなもの。
 勘は外れる。それも竹田はよく知っている。
「何をブツクサ言っているのかね、竹田君」
「いえ、世迷い言です」
「でも、業務日誌に書くほどだから、世迷い言を書くわけではなかろう」
「はい」
「それに、世迷い言じゃなく、君の言っていることは当たっているよ」
「そうなんですか」
「君がどういう方法を取っているのかがよく分かる。だから私も指導しやすい」
「あ、はい」
「普通なら、そんなことは書かない。恥ずかしいということではないが、余計なことだからね。結果ではなく、君は過程を書いている。だから私は評価する。その中味とは関係なくね」
「わあ、珍しく褒めて貰った」
「だから、内容じゃないよ」
「そうですねえ。ただの方法を明かしただけですから」
「しかし、それはね」
「はい」
「勘を頼るか、データを頼るかの問題なんだ。最後は絵だよ。数字や文字ではなくね」
「え」
「絵画じゃないよ」
「あ、はい。ご指導、有り難うございました」
「たまには褒めないとね」
「あ、はい」
 
   了

 


 


2022年11月20日

 

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