小説 川崎サイト

 

天守閣の化け物

 
 城の天守に何かいるという話はよくある。
 天守閣。それは普段は使われていない城もある。何層もあるが狭い天守もある。
 五重塔と同じで下からよく見えるので、これは一つのシンボル塔。
 また、下からも見えるのだから、上からの見晴らしも良い。一寸した物見櫓。
 だが、五重塔に住む人はいないだろうし、また居住空間ではない。なぜなら仏塔なのだから。卒塔婆塔の大きなものとは違うが、石塔のように、人が入れるわけではない。巨大な石塔もあり、上まで登ることが出来るのもあるが住む場所ではなく、団地の給水塔のように、中は給水装置のメンテナンス用の階段があるだけ。
 城の天守閣で怪しいことが起こったり、怪しいものがいるという怪談は、普段は使われていない天守なのだろう。
 しかし、定期的に巡回し、点検する番兵はいる。噂はそこから拡がる。
 特に古くて、それなりの物語が残っており、当時の建物と同じなら、なおさらだろう。建て替えた場合は、怪異は起こらないかもしれない。
 バケモノがいると聞いた城の武者、これは荒武者で、武芸の使い手が多い。天守に上がり、最上階へ続く階段を上りきったところに、ややこしいものがいた。武者は長刀で化け物の首を切り落とした。
 しかし、下へ下りてみると、抱えていた化け物の首がない。階段を下りていくとき、流石の荒武者も興奮しており、脇に抱えているものだと思っていたのだ。その首を。
 首、つまり化け物の頭部だが、意外と小さい。だが首は長く、蛇のよう。胴体は亀に近い。武者は首の何処を切ろうかと考えたわけではなく、首が伸びてきたとき、噛まれると思い、さっと刀で切り払った。残った首はその場で動いていたらしい。
 化け物の首を落とした。これで大丈夫と、武者は高笑いし、最上階から下りた。天守の一階にいた番兵は、その話を場内に流した。
 だが、武者の太刀には血の跡はない。
 しかし、その後、天守閣を巡回する番兵達は怪しいものとか、気配とかを感じなくなった。やはり、あの荒武者が退治したためだと、ほっとした。
 人は嘘を信じた方が良い場合もある。
 
   了

 

 

 


2022年11月23日

 

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