小説 川崎サイト

 

古跡巡礼

 
 一寸古い時代のものを見に行く癖が沢田にはある。現代劇ではなく、時代劇のような。
 近場でそんなところといえば寺社が多い。これも建て替えられているはずだが、造りは変わらないし、出来た頃も、それに近いのではないかと思われる。
 一寸今とは違う場所が良いのだろう。これで今から離れられるので、逃避場所になる。
 決して沢田は今を嫌っているわけではなく、そればかりでは味気ないので、そんな場所を訪ねる。これは山でもいいし、自然の多いところでもいいのだが、やはり人の作ったものがいい。ただ、今の人ではなく、古人が。
 寺社も現代化しているのだが、今風なものは表に出ないように、工夫しているのだろう。現代的なのが見え隠れしていると、一寸興ざめだが、そこは無視していい。
 古跡にも沢田は行くが、何でもないところに石碑だけでは、今一つ。石垣とか、階段とか、少しでもその頃のものが残っていると有り難い。
 石の長い目の階段だと大概は手すりが付いている。金属製で階段よりも目立つ。石よりも固い金属で、しかも光っている。これも沢田は無視する。
 湿気の強い沢沿いだと石階段に苔。これは良い。複合技だ。ただ苔の方が新しいだろう。出来た頃から同じ苔のままではないはず。
 しかし、石階段に苔という苔階段には変わりはない。今はそんな石を組んだような階段など作らないだろう。コンクリートにも苔は生えるかもしれないが。
 沢田は観光地にも行く。その方がかなり奥まで見学出来るため。これも今と隔離されたような世界。日常生活上にはない空間。そしてオブジェ。
 これは普段から一寸離れると言うことでは、有力な場所。地続きにある場所なので、ワープしたわけではない。しかし、がらりと世界が違う。
 昔の人は何を考えて、こんなものを作ったのかは、解説で分かるのだが、今はもうそれほど求めていないか、別のものに置き換えられているのもある。
 逆に昔の人の方が進んでいたということもあるかもしれない。
 少し今の場から離れ、束の間、別世界を彷徨う。これは映像を見ているだけではなく、生の場所に足を踏み入れているので、バーチャルではない。
 しかし、その場所そのものが、仮想世界を具体化したものだったのかもしれないが。
 沢田は休みの日には必ず、そういう場所を歩いている。慣れてくると、見所を新たに発見したりする。
 
   了
 

 



 


2022年11月27日

 

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