小説 川崎サイト

 

雨の話題

 
「秋の終わりの雨ですか」
「これがやむと寒くなるだろうねえ」
 これだけで会話は終わった。しかし、単に途切れただけかもしれない。それにしては長い間だ。
 お互いに次は何を言おうかと練っているところかもしれない。最初に交わした会話も挨拶程度。雨についてそのあと語るにしては、くどすぎる。だから話題を変えないといけない。挨拶から抜けて。
「あのう」
「あ、はい」
 一応、声は出た。ワンラリーあったのかどうかは分かりにくい。息を吐いた程度。その先の本文のようなものがない。これは仕方がない。偶然そこに居合わせた人で、互いに用事はないのだ。
 話さなければいけない用件がないのだから、黙っているだけでも問題はない。折角合ったのだから、というのがない。お互いに予定にはない人。挨拶を交わしただけでも充分すぎる。これも必要ではなかったりする。
「ところで」
 これで、切り出すつもりだが、その次の中味を用意していなかった。沈黙が怖いわけではなく、見知らぬ人と世間話をもう少しやっても良いのではないかという気持ちになっているのだ。ところでの次の内容は何でもいい。
「はい、何でしょうか」
 ところでのあとの沈黙で、催促された感じで、そのあと何だ、と。
「雨はいつやむのでしょうか」
 またしても天気ネタ。ここから出ないといけないのに、そのネタがない。それで追い込められ、安全な天気の話を続けることになる。
「さあ、天気予報は見ていないので、よく分かりませんが」
「私もです」
 盛り上がってきた。まだ先へと続けられる。
「では、あなたの予測ではどうですか」
 一寸難しかったかもしれないが、ただの予想なので、答えやすいと考えたのかもしれない。こういう場合、相手が答えやすい問いかけをするもの。その中味はどうでもいい。
「僕の予想ではしばらくは降り続くだろうねえ。その根拠はね」
「根拠があるのですか」
「降りが弱い。こういう雨は長引きやすい。それだけです」
「それは経験に基づいて?」
「そうです。それと空の状態。今、真っ白でしょ。この白いのが履けないとやまないように思われます。この二点が、その根拠です」
「ああ、なるほどねえ」
 会話を無事に進められればいいことで、雨の降り方など、どうでもいい。ただ、相手を乗せる方が会話は弾む。もっと喜ばせてやれと思い「まるでお天気博士ですね」と言ってしまった。
 相手は喜ばなかった。何処で引っかかったのだろうか。天気は変わる。天気に纏わる悪い方のイメージに突き刺さったのかもしれない。
「私はお天気博士ではありません」
 と、不機嫌な声色。
 博士に刺さったのか、お天気に刺さったのかは分からない。また、全く違うものに刺さったのかもしれない。
 再び沈黙が訪れた。
 会話のやり取りではなく、この二人、最初から相性が悪いのかもしれない。
 
   了

 
 
 


2022年12月2日

 

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