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秘伝
「現実を知ると、想像する必要がない」
「当然ですね。師匠」
「それで、想像力がなくなる」
「いえいえ、想像する必要がないためでしょ」
「いや、色々と想像しておる方が豊か。下手に知ってしまうとそれまで」
「でも、想像でものを言うのはよくないのでしょ」
「言わなければいい」
「え」
「だから、独り言でいい」
「はあ、しかし想像よりも現実の方が正しいのでしょ」
「そうとも言えん。その現実が正しいかどうかは想像にしか過ぎん」
「また、想像ですか。何処まで行っても」
「しかし、これが現実だろうというのはある。それ以上想像出来んからな」
「じゃ、想像するのは悪くないのですね」
「そうでないと、何も見えんじゃろ。確かめようのないものもあるでな」
「そうですねえ」
「今まで勝手な想像で、それが現実だったものもあるが、それが長く信じられておった頃なら、それが正しいのじゃろう」
「でも実際には違っていた場合は、大変ですねえ」
「それでも、まだ信じておったりする。もう出来上がっているのでな。今更、それは違うとなっても、もう遅い」
「これは現実じゃないと分かっていても、間違ったものをまだ信じるのですか」
「だから、それが通用しているのじゃから、違っていても、そのままいってしまうことがあるのじゃ」
「でも正しい現実が本当はあるのでしょ」
「つまらんものに、逆に見える。分かりきってしまうとな」
「動かしがたいですからね」
「想像の次元のものなら、まだ動かせる」
「どっちがいいのでしょう。師匠」
「だから、これが確実な現実であり、事実であったとしても、それもまた想像内なんじゃな。これは先ほど言っただろ」
「じゃ、想像も現実も、どちらも想像なんですか」
「想像でしか受けとれんからな」
「じゃ、同じようなものですね」
「それは君の想像次第」
「それを聞いて安心しました」
「しかし、口外してはならん」
「承知しました」
了
2022年12月10日