小説 川崎サイト

 

寒波

 
「急にまた寒くなりましたなあ」
「寒波です」
「波ですか」
「海の波のようなものでしょ」
「それが上にある。空で波打っているのですな」
「しかし、風がなければ、波も立たないでしょ」
「海流で波立つでしょ」
「流れているところとそうでない際がぶつかって波打のでしょうかな」
「さあ、詳しくは知りませんが」
「では、なぜ海流が出来るのですかな。潮の流れが」
「さあ、風は常にあるのでしょ。それと海底の地形も影響しているのかもしれませんがね」
「水とか海水とかだと分かりやすいですが、寒波は見えないので、分かりにくいですなあ」
「肝心要の理由などは、実際には分からないものですよ。なぜそれがあるのか、海があるのか」
「ああ、根本的なところですねえ」
「それに私達がこうして喋っている本体はどうして存在しているのか」
「それはもう宇宙の始まりまで行きますなあ」
「始まりなどなかったりしてねえ」
「そうなんですか」
「誰も見た人はいません。ちょっと昔の話で、昔すぎるので、見るもなにも、人などまだ生まれていない時期ですからね」
「しかし、今朝の寒波、きついですなあ。まさに冷たい風の波」
「風がなければ、少しはましでしょう」
「そうですなあ」
「この波が曲者でしてね」
「ほう、どのように」
「ものの最小単位は、ただの波だと言いますからね」
「ああ、聞いたことがありますが、今一つピンときませんなあ。ただ振動しているだけとはね」
「寒波なんて、その大きなものですよ」
「まあ、分かっていることは、寒いって事でしょ。トイレが近くなって仕方ありません。暑い時は汗で出るんでしょうがね」
「体の中は地球だったりしてねえ」
「じゃ、蒸発して雲になり、雨を降らすとか」
「雨で来るか、雪で来るかは分かりませんがね。似たような仕掛けじゃないですか」
「あなた、サイエンスが好きなんですか」
「いや、不思議なことが、少しでも分かれば、楽しいでしょ。娯楽です」
「私は迷信が好きです」
「僕はリアルな嘘が好きです」
「あ、そう」
「しかし、今日は寒いですなあ」
「そうですなあ」
 
   了


 

 
 


2022年12月17日

 

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