小説 川崎サイト

 

従属

 
 美津濃城が怪しい。
 怪談ではない。その城主が怪しい。美津濃地方は寒川の属国。村山領との境にあるので、曖昧な地。
 最初は独立していた。しかし寒川の勢力が伸び、その力が美津濃に及んだとき、美津濃は寒川に従うことになる。
 家来のようなものだが、まだそれなりに独立していた。味方ですと言っているだけのようなもので、敵対しませんのでご安心のほどを、ということだが、その証しとしての人質を寒川に差し出していない。これはただの儀礼上のことで、その人質も寒川にいる方が見聞も広くなるはず。待遇は悪くない。
 しかし、約束はしたものの、まだ差し出していない。色々と事情を作り、引き延ばしている。
 寒川も、あまりしつこく言いたくないのか、最近は言わなくなった。
 しかし村上家という勢力がすぐ横にあり、隣接している。村上家は美津濃を足がかりにし、寒川を攻めたい。
 しかし、本気ではない。折りあらば程度。それで村上側に寝返るように何度も使者が来ている。
 これは目立つ。すぐに分かってしまい、寒川にも伝わった。
 それで、美津濃は怪しいとなる。
 ここは人質を取るべきだと思い、その使者が美津濃に来る。
「差し出しますが、しばしご猶予を、何せ病弱で」
「なかなか回復せぬようですが、別のお子でもよいぞ」
「はいはい、何とか致します」
 美津濃家は屋敷程度で、城と言うほどではなく、また砦にしてはそう言う構築はしていない。ただの大きな屋敷程度。
 攻め落とすのは簡単なのだ。
 美津濃館の別館に宿泊所がある。いざとなれば、そこに兵を詰めることも出来る。だから結構広い。足軽長屋よりも少し上等程度。
 寒川の使者は、それなりの御馳走をいただき、その宿泊所で泊まることにした。
 その宿泊所のお隣の部屋にも泊まり客がいた。入口ですれ違ったとき、軽く会釈したが、見かけない顔。寒川の侍ではないことだけは分かる。
 この人も使者で、村上からやってきた。これは頻繁に来るので、噂が立ち、今回寒川から人質の件が復活しのもそのため。
 その朝、朝食が出た。個室ではなく、長屋の広間がお食事処になっているので、そこで食べることになるのだが、二人の使者はそこで顔を合わせることになる。
 美津濃館から家老が出向き、三人で話し合うことになる。
「どっちにも従うと言うことでいかがでしょうか」
 つまり二つの勢力に従属すると言うこと。
 二人の使者は顔を見合わせた。
 そしてどちらにも人質を差し出すと。
 その後、これは成立したのだが、相変わらず人質は送らない。送るといっているので、送らないと言っているわけではない。
 寒川と村上の関係が悪化し、戦いになろうとしていた。
 そんなおり、美津濃は重宝な場所で、緩衝地帯、不戦の地に近い。
 どちらの勢力も美津濃は味方。攻めるわけにはいかない。
 そのうち、この二つの勢力も、それを越える大勢力に飲み込まれてしまうのだが、美津濃は生き残った。
 
   了

 



 


2022年12月25日

 

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