小説 川崎サイト

 

整える

 
「心身を整えるのが大事」
「はい」
「心を常に整え、体もよく整えるべし」
「どちらが先ですか」
「両方」
「同時ですか」
「まあ、心が先かな」
「そうですね。無理なことを強引に指令するわけですから」
「何じゃ、その言い方は、まるで心身を整えるのは不自然なことのように聞こえるが」
「自然に整うのではありませんか」
「それでは、わしの役目がのうなる」
「失礼しました」
「心を整える。これは分かるな」
「はい平常心ですね。でもその平常って、人により、違っていたりするはずですが、それはいいのですか」
「人と比べてはいけん」
「いけんですか」
「釣り合いの問題じゃな」
「均衡ですね」
「どちらかに傾こうとしたとき、さっと戻せるような感じじゃ。極端にはならずにな。ただ、場合により極端なことをせんといけん。しかし、それでもすっと逆方向へ戻る。行きっぱなしではなくな」
「普通にやってますね」
「静かに」
「はい」
「体を整えるのも同じこと。先ずは歩き方に出る。足だけで歩いてはいけん」
「そこも、いけんですか」
「全身を使う」
「手をついて歩くとか」
「それならサルに戻ってしまう」
「はい」
「当然仕草が大事。歩き方だけではなくな」
「礼儀作法のようなものですか」
「そうじゃな。よく整った動きがいい」
「とっさの場合は」
「体が自然に動く。それに任せておけばいい」
「ありますねえ。考える前に動いています」
「いずれも型を覚えること。身につけば、自然とその動きになる」
「心の整え方はどうなります。均衡を保つだけですか」
「心を心で考える。これは難しい」
「分かりにくそうですねえ」
「これも型を覚える。心のあり方についてのな」
「それは礼儀作法のようなものですか」
「修身と呼んでおる」
「あ、はい」
「心体も、この修身に入っておる」
「はい」
「身も心も整うと、気持ちよか」
「よかですか。じゃあ頑張って整えてみます。だらしなく過ごすのは駄目なんですね。毎朝水浴びをするような感じでないと」
「そこまでせんでいい。わしもしておらん。そんな極端なことは避けるべきじゃ」
「安心しました」
「まあ、ほどほどでいいんだよ」
「じゃ、普通にやってますねえ、それぐらいのことなら」
「それ以上言うでない。わしの仕事がのうなるけん」
「けん。はい、失礼しました」
 
   了

 


2022年12月27日

 

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