 |
 |
初夢
「初夢を見ましたか」
「今年になって初めて見る夢ですね」
「まあ、それでもいいのですがね」
「決まった日があるのですか」
「だから、それはいいので、どんな夢を見られました」
「まだ、見ていません。見ていたのかもしれませんが、忘れました」
「なるほど、夢は忘れる」
「覚えていないだけで、見ていたのでしょうね」
「見た夢を覚えていない。まあ、それもいいでしょ」
「初夢が何か」
「まあ、縁起の良い夢があるのですよ」
「では、縁起の悪い夢もあるのですね」
「それで、今年を占うとかになります」
「初夢占いですね。縁起がいいどころか、悪夢なんて見ると、今年は思いやられますよね。僕はまだ見ていないので、分かりませんが、そんな夢を見た時は良い年になると思うことにしていますよ。今年じゃなく、最近の状態ですが」
「悪夢がいいと」
「悪いものが出てたのでしょ。それを吐き出した。毒が入っていたのですが、外に出した。これでスッキリするはずです」
「悪夢を見て、スッキリするのですか」
「そう捕らえた方がいいでしょ。どうせそんな夢占いとかは当たったり当たらなかったりしますので、自分で解釈すればいいのです」
「では縁起の良い夢は凶夢ですかな」
「縁起が良い夢なら、そのままでしょ。でも幸い転じて凶になりそうです。調子の良いときほど高転びする。思わぬところから刃が出てくる」
「じゃ、あなたは縁起を担がないと」
「同じようなものですから」
「私が見た初夢ですが、あなたには話したくなくなりました」
「いや、縁起の良い夢なら問題ないでしょ」
「さあ、何かよく分からない夢でした。凶でもなく吉でもないような」
「それはいいんじゃないですか、良くも悪くもないのが一番ですよ」
「内容には触れませんが、夢の中の世界って不思議ですねえ。ありそうでいてない。知っている世界のはずなのだが、様子が違う。人もそうです。見知った人が夢の中では一寸違う」
「それは何でしょうねえ」
「私から発しているのでしょ。夢の中のその人ではなく」
「ややこしそうな話ですねえ」
「でも、夢の中で受けたその人の印象、結構残ります。実際に会った時も、それを思い出したりします」
「でも、それは夢ですから」
「そうですねえ。しかし、何かを言い当てているような気がしてならないのですよ」
「それが今年の初夢でしたか」
「あ、うっかり夢の中身を話してしまいました。初夢は語ってはいけないのです」
「そうなんですか」
「私の決め事です」
「それで、初夢の中に出てきた人って、僕のことじゃありませんか」
「それは言えません」
了
2023年1月5日