小説 川崎サイト

 

流れ

 
 そうなるような流れがある。一寸した流れの変化で、その後、出て来ないものと遭遇するのだが、これは出合うべきして出合ったような感もある。
 そのような流れを作った覚えはないのだが、その流れに押し出され、展開が変わり、思わぬところに出てしまう。最初からそこへ行こうとしていたわけではなく、実は避けていた。
 しかし、その手前の流れがあり、それに乗ってしまったのだ。その、さらに前の流れがあり、そのあたりから、そっちへ行くことがまるで決まっていたかのように。
「運命論ですか、竹田君。君にしては珍しい。そういうのは研究対象にはなりません。だから、考えるのをやめなさい」
「主任にそう言われるのも、もう最初から決まっていたような話ですねえ」
「まだ、運命論を言っているのですか」
「そういうことも、決まっているのです。二回、そういう注意を受けるのも」
「ほう、では君がそう答えるというのも決まっているですか」
「そうです」
「そりゃ重症だ」
「その重症という言葉を聞くことも、決まっているのです」
「冗談はそれぐらいにしておきなさい」
「はい。でも、たまには、そういうこともあるでしょ」
「そうですねえ。偶然の流れと言ってしまえばはそれまでの話ですが、これはできすぎていると思われることも確かにありますねえ」
「ほら、主任も」
「しかし、そういうものを扱っても、何ともならないと思いますよ」
「何かの導きですか」
「いやいや、誰もそうなるように仕込んでいるわけじゃありません。最初から決まっているのですよ。あ、妙なことを言ってしまった。竹田君よりも重症だ」
「じゃ、あるんだ」
「しかしねえ、竹田君。全部が全部そうだと思い、その流れに任せておくと、とんでもないことになりますよ。間違った流れだったりしますし、大事な意味での流れではない場合もね」
「その間違った流れも最初からそれに乗るように決まっているんじゃないのですか。そこを経ないと、次の流れに乗れないとか」
「きりがないねえ」
「そうですねえ」
「さあ、そんな余計なことを考えないで、今の研究を続けなさい」
「あ、はい。それも流れなんですね」
「またまた」
 
   了

 


 


2023年1月15日

 

小説 川崎サイト