小説 川崎サイト

 

助太刀

 
 富田村は大きな村で、その一角に町家がある。
 その長屋に棲み着いた浪人の作田に便りが届いた。知り合いの若い武士からで浪人ではない。
 作田は文面を見たときは既に遅い。便りが届くのが一日遅かった。もし、一日前に来ておれば、駆けつけられた。
 仇討ち。
 富田村からは半日で行ける城下の外れの森。作田も知っている場所だ。
 その武士、まだ若い。作田が剣術道場にいた頃、可愛がった青年だ。しかし、彼が仇討ちをするわけではなく、助太刀。
 相手は数が多い。そこで青年は先生でもある作田にも手伝って欲しいといってきたのだ。助太刀の助太刀。
 作田は道場にいた頃は、居候のようなもので、師範代よりは弱い。
 道場破りなどが来たとき、作田がよく起用された。門弟に怪我をさせたくなかったのだろう。
 ただ、作田は道場破りと戦って負けたことはない。しかし、師範代よりも弱い。これは試したことがある。作田の負け。
 だが、青年は知っていた。作田は無理に負けているのだと。そうでないと、この道場に居られなくなる恐れがあるため。
 師範代としての面目がある。それを立て続けたが、何処かでバレたのだろう。それで、居心地が悪くなり、旅に出た。そしてやっと落ち着いたのが富田村。
 町家だが、歓楽施設もあり、その用心棒のようなもの。
「先生、お頼みします」とか「先生を呼んでこい」とかで、作田の登場となる。相手は武士の場合もあるが、作田は大柄で、顔も厳つい。それに長い目の太刀を差しており、これを見ただけでも手強そうなので、斬り合いにはならない。
 さて、先ほどの手紙。もう今頃は仇討ちも終わっているはず。だから行っても、何ともならないのだが、その青年が上手く助太刀を果たしたのかどうかも気になる。
 それで、すぐに城下外れの森へ行く。まだ、何か残っているかもしれないし、城下でも話題になっているはず。青年の安否も分かるだろう。
 城下外れの森。一本の銀杏の大木があり、その下でおこわなれたはず。
 先ずは、銀杏の下。作田は、噂話よりも、まずは現場を見た。
 木の下は草が生えているが、地面も見える。ここで争ったのなら、草が曲がっていたり、土にその痕跡ぐらいは残っているはず。もし斬り合ったのなら血の跡も見付かるかもしれない。
 だが、それらしきものはない。
 城下に戻り、店先などで仇討ちの話を聞くが、そんなことがあったことは誰も知らないよう。
 その城下に、その青年の一家が住む屋敷があるので、怖々、そこを訪ねた。悪い状態なら面倒なことになる。それに見るからに浪人者。それなりの挨拶もしずらい。
 そして屋敷前。小さな橋が疎水に架かっている。葬式にはなっていないようだ。
 人の出入りも確認したが、静か。
 これぐらいでいいだろうと、作田は引き上げることにした。城下で聞いた通り、仇討ちなどなかったのだ。
 富田村に戻ったとき、長屋の者が手紙を持ってきた。留守の間に来ていたのだろう。
 あの青年のものからで、仇討ちは中止になったと書かれていた。
 作田はほっとした。
 
   了

 


2023年1月18日

 

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