小説 川崎サイト

 

なほとか村

 
 なほとか村。そんな村は存在しない。村木の頭の中だけにあるのか、または何処かで聞いたことがあり、忘れているだけなのか、それは分からないまま。
 しかし、なぜ「なほとか」なのか。そして、それは村。実在しない村だが、あるかもしれない。何処かで聞いたのなら。
 そして「なほとか」という言葉をどうして知ったのだろう。しかも村であることも。
「なほとか村」は忌み地で、行ってはならない村。古い因習が今も残っており、他の村とは明らかに違う。
 そして暗い。ここに住む人がいるのだが、自立した自給自足の村ではなく、他村や町との交流もある。そして、他村や町での評判はよくない。暗いのだ。そこに住んでいる村人が。
 ただ、一見して普通の村。かなり僻地にあり、その村から向こう側はもう何もない。山深い田舎の村で、その先はもう人は住んでいない。
 村木は子供の頃から「なほとか村」を知っている。それさえも遠い思い出のようなもので、今もそんな村があるとは言えない。それを何処で聞いたのは分からないが、遠い昔にあった村なのかもしれない。
 今、そんな僻地の村など、あったとしても、とうの昔に廃村になっているかもしれない。
 つまり村木の知っている「なほとか村」は、いつの時代の村なのかが特定出来ない。
 その村をたまに思い出すことがある。村での出来事とかではなく、村の名前だ。そして、その村で何があったのか、そんなことは知らない。
 分かっているのは村名と、村の全体像ぐらいで、いずれもそのへんにある村と、それほど変わらないだろう。しかし「なほとか」という村名が変わっている。
 そこからのただの連想なのかもしれない。いかがわしく妖しい。
 ただの言葉の語呂だけのことだったとしても、なぜ「なほとか」なのか。その意味よりも、どうして村木が知っているのか、しかも子供の頃から。
 そして、その情報源が分からない。
 まだ、物心が付くか付かないかの時期、誰かから聞いたのかもしれない。何かのお伽噺に出てくる村の可能性もある。
 または村木が言葉を覚えた頃に、言葉遊びで、色々と組み合わせて「なほとか」と並べた可能性もある。それに村を付け加えて「なほとか村」になったとか。
 しかし、たまに「なほとか村」を思い出したとき、ぞっとするようなものが走る。
 その全てが村木の想像上の村であったとしても、それは現実と変わらず存在している。ないのに存在している。ある可能性があるとしても。
 村木は生まれたところも育ったところも、普通の町。村とは関係がない。両親の先祖なら別だが、「なほとか村」のような村ではない。
 その「なほとか村」、村瀬に影響を与えているわけではない。ただ、思い出したとき、ぞっとする。闇の中からおぞましいものが出てきたように。
 
   了

  


2023年1月24日

 

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