小説 川崎サイト

 

龍足

 
 強い風が吹いている。これで雨なら傘は差せない。しかし、黒雲が動いている。その下は俄雨かもしれない。黒い靄の塊で、その輪郭はぼやけている。雲の中程から白くなっている。黒い部分はまるで影。
 その雲が流れていく。上空の風も強い。しかし太陽はさんさんと照っている。黒い雲は空のほんの一部。しかし、それが頭の上に来れば、逆転するだろう。
 しばらくすると、風が収まり、黒い雲も消えた。流れたのではなく、掻き消えたかのように急になくなった。
 坂田はそこまでじっと観察していたわけでなく、少し用事を済ませて空を見たとき、青空になっているのに気付く。
 雲が風を呼んだのか、風が雲を呼んだのか、それは分からない。龍がいて、それが黒雲を湧かせたのかもしれない。風も龍が呼んだのだろうか。それがただの青空になった時、もう龍はいない。
 この龍、何処から出てきたのだろう。しかし、そんなものが空にいると航空機は飛びにくいだろう。鳥と違い、大きいので。
 坂田は、こういう日は部屋に籠もり、大人しくしている方が良いと思っているのだが、用があるので仕方なしの外出。
 お陰で空のショーを見せて貰った。龍は出なかったが。昔の人は、こういうのを見て、何かを感じ、話を作ったのかもしれない。モデルとしてはいい。
 また、空で起こること、人は良く見ている。多数の人が。だから、ベースが出来ているのだ。珍しいものではなく、天気の変わり目などではよく見かける空の様子。
 どうも寒波が来ているようで、その第一波の風だろうか。気温は低くはないが、これから寒くなるはず。
 しかし、よく晴れた空になり、陽射しも眩しく、そして暖かい。
 坂田は寒波など来ないのではないかと思ったが予報では確実に来るし、既に寒波の影響で大雪が降っている地方もある。それが徐々に近付いて来ているのは確か。
 それよりも、先ほど、風が強かったときの上空。妙な雲が流れて行ったのだが、そこに龍の形を見たような気になった。そのときは龍などいないし、またそんな形のものなど見ていない。
 しかし、それを思い出したとき、そこに龍が加わった。
 蛇足ではなく、龍足だ。
 
   了

 



2023年1月27日

 

小説 川崎サイト