異変
川崎ゆきお
山城は不審に思った。ふに落ちなかった。
いつもとは違うのだ。
いつもならゴーストタウンのようなショッピングモールなのに、人の気配がする。するどころか、人が大勢いるのだ。
いつもなら簡単に自転車を置けるのだが、かなり奥まで行かないとだめだった。
入り口に置くと、店まで歩く距離が長くなる。そのため奥まった場所のほうが好ましいのだが、建物の入り口付近はそれを知った客が既に占領している。
自転車が多い日は建物からも遠い通路があてがわれている。ちょっとした広場になっており、それに沿った通路だ。
山城は仕方なくそこに自転車を押し込んだ。
建物までは遠くなるが、歩けばいい運動になる。
子供用の自転車も多い。
何があったのかと山城は考えた。
いつも通るドーナツ屋も満員で、レジに行列ができていた。子供もいれば大人もいる。
山城はこのショッピングモールができたころの人出の多さを知っている。もう二十年以上前の話だ。
「あのころにワープしたのか」
そのころはゴーストタウンではない。
「何があったのだ」
山崎は中央部にある喫茶店までの通路や階段から観察するが、人が多いだけで、特に変わったことはない。
陸橋の上からイベント広場を見るが、何も行われていない。夏場噴水だった場所にクリスマスツリーが立ち上がっている。
その周囲のベンチには親子連れやカップルが占領し、中学生らしい集団が地面に座り込んで憩いでいる。
陸橋を渡ると大きな建物の中に出る。二階フロアだ。ここは人跡未踏地のように人影はめったにない。
ところが普通に買い物に来ている客がいるのだ。このあたり前の風景が妙に怪しげだ。
いつもと違うからだ。
山城は目当てのセルフサービスの喫茶店に入るが、レジ前に行列ができている。百ほどの椅子がある広い店だが、客がいるのは珍しいほどで、全席空席で普通だった。
山崎はトレーにコーヒーカップを乗せ、こぼさないように空いている席を見つけて割り込んだ。
そしてやっとこの異変の原因が分かったのだ。
平日だと思っていたのだが、勤労感謝の日だったことを。
しかし、山崎は感謝される位置にはいない。
了
2007年11月23日