小説 川崎サイト

 

言わぬが花

 
「暖冬ですかなあ」
「一寸寒いときもありましたが、このまま春になるんじゃないですか」
「もっと寒くなりだしても、いい頃なのですが」
「寒波が来なければ、このまま春へ至りますよ」
「至りますか」
「もう立春も過ぎたし、梅も咲いている。次は桜ですが、まだ、間がある。すぐには咲かないでしょうが、蕾の先っぽに変化が現れますので、注意が必要です」
「危険物ですか」
「近付きすぎると、センサーが働き、爆発します」
「でも桜の蕾程度なら、大した破壊力はないでしょ」
「そうですねえ。しかし、これは冗談ですよ。分かっていると思いますが」
「はい、存じております」
「まあ、このまま暖かくなっていくのなら、有り難い。冬の底から出て春に向かっているのか、それはよく分かりませんがね。そういった草花を見ていると、分かるかもしれません」
「でも、大したことじゃないですよ。世を騒がせるような」
「桜の蕾が爆発すれば、騒ぎになりますがね。でも良くあることで、この時期、あちらこちらで爆発しているのなら、年中行事。また、歳時記に載ったり、季語になったりしますよ」
「蕾の爆発ですか。一寸離れましょう」
「近付かなければ爆発しない」
「いやいや、その話から離れましょう」
「ああ、冗談ですからね。ただの馬鹿話」
「でも、リアルな話ばかりじゃ嫌ですねえ」
「そうでしょ。それにリアルな話はあまり語りたくありません」
「本当のことですからね」
「桜の蕾は本当にありますが、爆発はしない」
「また蕾ですか」
「蕾の頃の方がよかったりします。下手に咲いてしまうよりもね。咲くと目だつ。蕾だと、あまり目だたない。そういう違いじゃないのですがね」
「子供の頃なら、蕾が爆発すると思えたかもしれませんねえ」
「ははは、それは物心が付くか付かないかの頃でしょ」
「そうです。しかし、本当に爆発しているところを想像したかもしれません。今もやろうと思えば、できますがね。これは有り得ない想像。しかし、うんと幼い頃は有り得るかもしれないと思いながら、見ていたかもしれません」
「ほほう、乗ってきましたね。蕾話に」
「今でも、そんな馬鹿げた想像はしますが、最初から馬鹿げている。本気じゃない。だからスリルがない」
「まあ、ボンボンと、頭の中で爆発させておけばいいのです。誰もあなたの頭の中なんて覗けないのですから」
「今、私の頭の中、何を思っているのか分かりますか」
「分かりようがありません。言ってみて下さい」
「言わぬが花」
「はて」
 
   了



2023年2月9日

 

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