小説 川崎サイト

 

休憩場所

川崎ゆきお



「どこかで一休みしたいですなあ」
「疲れましたか?」
「はい」
「この先の脇道を登ると展望台があって、見晴らしもいいし、ベンチもありますよ」
「じゃ、そこで一服しましょう」
「休憩なしで行けば、早く着きますが、苦しいのなら、山歩きの面白さも半減しますからね」
「そうです。修験者じゃないんだから」
「はいはい」
「その脇道はまだ遠いのですかな」
「もう少しです」
 やがて登り口に達した。
「ここを登るのですかな?」
 そこにもベンチがあるが、家族連れが休憩していた。
「見晴らしがいいですから。同じ休憩するのなら、展望台から、見下ろすほうが気持ちがいいですよ」
 展望台への道は階段になっていた。丸太をあてがっただけのものだ。
「キツイですなあ」
「もう少しです」
 下からは展望台らしいものは見当たらない。
「少し休憩したいのですが」
「苦しいですか?」
「息が苦しいし、足が上がりません」
「もう少しです。苦しんで登っただけのことはありますよ」
「ここは脇道でしょ。目的の滝まで、まだあるのでしょ」
「後は下りですから、楽ですよ。滝には茶店もありますし、バス停も近くにあります」
「ここで休んで、滝へ向かいませんか?」
「同じ休むのなら、展望台がいいですよ」
「それはそうだな」
「見晴らしを楽しめば、疲れも吹っ飛びますよ」
「そう願いたいのだが、足が上がらんのですよ」
「大丈夫ですよ。登れているじゃないですか」
「ギリギリで、辛いです」
 二人の距離が離れてゆく。
「もう、見えていますよ。展望台」
「はい。頑張ってみますがね。ここで座るのはだめですか。休憩する場所まで休憩なしでは行けません」
「あと一息なんですがねえ」
「私の一息は、一歩です。この階段の一段分です」
「じゃ、少し休憩して展望台へ行きましょう」
「いや、ここで休憩すれば、休憩しにまた登る必要はありません」
「残念ですねえ。休憩場所にふさわしい展望台なのに」
 二人はその後、無口になった。
 
   了



2007年11月24日

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