小説 川崎サイト

 

鬼山城

 
 鬼山城。鬼山には謂れがある。伝説。
 当然、鬼の伝説。鬼ヶ島の話と近い。島が山になっただけ。
 そこに山城がある。だから鬼山城と呼ばれているが、本当はそういう名ではない。鬼山は存在するが、鬼山城は呼び方に過ぎない。そちらの方が分かりやすいためだろう。
 椎家の館だった場所。椎家は土地の豪族だったが、滅ぼされている。しかし領民はそっくりそのまま残っているし、椎家の家来もかなり残っている。
 しかし、ここを支配した大名家には組み入れられていない。だから百姓に戻っている。
 少し前の世代までは武士だった。といっても豪族なので、武装した農民程度。
 鬼山にあった椎家の館跡が城規模に改築され、数倍の広さになった。敵の領地が近いわけではなく、一番奥深いところで、戦略的価値はない。それなのに城を作った。
 これは最後に逃げ込むための城。武器類や食料も三ヶ月ほどは困らないほどある。だが、三ヶ月だ。籠城しても、三ヶ月だけ。
 それより先に落とされるかもしれない。なぜなら、ここの大名家が鬼山城に逃げ込まないといけないほどの負け戦になっているため、三ヶ月も持たないと思われる。
 しかし、この鬼山城はそういうことで使われることはなかった。
 椎郷は辺鄙な場所にあり、その鬼山城に兵を常駐させるのは無駄。平時なら、そんなことはしないだろう。
 城は鬼山の麓から中腹に回り込むように作られており、それなりに広い。山そのものを城塞化しているのだ。そのため、新たに積まれた石垣などが、いかにも城らしく見せている。
 しかし平時は無人に近い。別荘の留守番夫婦がいる程度だ。
 本拠地から留守番に来るのは足軽。これは交代で来る。二人とか三人。
 小さいとはいえ、山城なので、結構広い。長いと言ってもいい。そして天守こそないが、大きな屋敷がある。これは椎家時代の館をそのまま使っている。
 鬼が出る。
 留守番の足軽達が言い出したことで、何かいるのは確かなのだが、それが分からない。当然、鬼山なので、鬼だろうということになる。
 伝説では鬼山の鬼は桃太郎に退治されるのだが、それに近い話。
 これは椎家が支配する前にいた連中が鬼山を根城にしており、それを退治したとされている。それが山賊だったか野盗だったか、または別の集団だったのかは分からないが、それを鬼とした。当時は当然鬼山などとは呼ばれていない。
 足軽達は、その伝説を知っているので、生き残りの鬼が城内に入り込んで、備蓄している食料などを食いに来るだろうと、まことしやかに語っている。
 実際には、嫌々ながら留守番に来た足軽が目立たないように小出しに盗んでいたのだが。
 鬼山城に鬼が出ることは本拠地でも知られているが、鬼退治の兵は出していない。
 
   了

 


2023年2月15日

 

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