小説 川崎サイト

 

ポジション

 
 席が空いている。自分の席だ。自分が空けたわけではない。喫茶店の席。誰かがそこに座っていると、自分の席がなくなるが、一つしかない席ではなく、隣のテーブルに人が居なければ、そこが自分の席になる。
 ただし、自分専用ではない。それに小一時間ぐらい居るだけなので、それ以外の営業時間中、色々な人が座っているだろう。そのため、自分だけの席ではない。
 人が多いと、いつもの席に着けない。その近くの席になるので、自分の席も替わる。一寸左右や前後が変わったりする。また満席なら、そういう席にさえ着けない。
 自分の席がなくなったと文句は言えない。予約が効く店ならその時間は予約席として確保出来るが。
 しかしその店は滅多に満席にはならない。そうなりかかっていたこともあるが、それは出る前。だから席は確保した状態。
 また、店に入ったとき、満席だったこともあるが、運よく立ちかけの人がいたので、席は確保出来た。ただし、いつもの席ではなく、滅多に座ったことのない席だが。
 竹田が自分の席と言っているのは、一番多く座っている場所。客が誰もいないときに入れば、そこに座るだろう。
 また、その席はほぼ空いているので、その席があたかも指定席のようになっている。
 そのため、その席が一番落ち着く。四人掛けでテーブルも広く、ソファーなので、これは固定しているので、安定感がある。そして後ろは壁。右側も壁。進入口は正面と左側だけ。守りがいい。後ろと右側からは視線は来ない。
 逆に竹田の席から店内全て見渡せる。他の人が見ようと思えば、竹田は全員から見られてしまう位置にいるのだが。後方に憂いがない。バックを取られることもない。だからいきなり襲われることはない。
 従ってこの店では一番守備しやすい場所。全体を見渡せるので、人の動きは全て分かる。
 しかし、ただの喫茶店。攻城戦をやるわけではないし、いくさでの陣構えなど必要な場所ではないが、そういうポジションを竹田は好む。
 しかし、毎回そんな警戒をしながら、座るわけではない。喫茶店内の客が襲っては来ないだろう。
 その席がいいのは、そういう感じがいいためだが、竹田の席ではない。座ればその時間だけは竹田の席になるが、空いていなければ、別の席が竹田の席になる。
 席が変わるのだ。固定したものではない。
 いつも座る席とは違う席に座ったとき、少しだけ居心地が違う。そこは自分の席でないような気がする。その席はいつもの席と似ているが、左右にもテーブルがあり、壁ではない。左右のガードが甘い。そこは壁であって欲しいところ。
 しかし、店の中程の席だと、前後左右はイケイケなので、四方を警戒する必要がある。ただ、そこは喫茶店、そんな警戒心など必要ではない。そんなことは竹田も分かっているのだが、周囲の状況把握は大事。
 どの席も竹田の席になり得るのだが、どの席も竹田の席ではない。そこに座って初めて竹田の席が発生する。
 同じ席に座りたくても先客がいればその席は人の席。
 そして、喫茶店内での席ではなく、竹田が置かれている席もある。それも動くのだろう。動いたり動かされたり、空いていなかったり、空いていたりとかで。
 
   了

 


2023年3月5日

 

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