小説 川崎サイト

 

寒桜

 
「季節を掛け急ぎましたなあ」
「寒いと思っておりましたが、急にこのところ暖かい。少し早すぎます」
「穏やかに進めばいいものを、これではお返しがあるじゃろう」
「寒くなると」
「既にその兆しは出ておる」
「何事も起こってはおりませんが」
「平穏に見えても、色々なことが起こっておる」
「はあ」
「岩下殿が行へ不明」
「はあ」
「榊原氏は乱心されたとか」
「それと急ぎすぎたこととは関係があるのですか」
「いずれも今回、関わりのあった御仁」
「しかし、目立った争い事はなく、平穏ですが」
「裏で、大乱闘」
「まだ若い木村殿は駆け落ちしたとか」
「そういえば、逐電した者がそれなりにいますねえ」
「そうではなく追放されたのじゃ」
「城下の空き家が増えております。これも関係があるのでしょうか」
「他にも色々とおかしなことが起こっておる。いずれも小さなこと。問題にするようなことではないが、あの影響じゃ」
「急ぎすぎたと」
「春をな」
「しかし、何事も起こっておりませんが」
「表向きはな。そしてずっと平穏なまま通過していくだろう」
「柴田様が急ぎすぎたのでしょうか」
「わしは、まだ早いと言ったのじゃがなあ」
「はあ」
「次は柴田様に何かが起こるじゃろう」
「政変ですか」
「いや、御病気になり、伏せておられるとかじゃな」
「はあ」
「そのうち、お役目が果たせぬので、身を引くと言い出すじゃろう」
「はあ」
「急がせたのは柴田様。その柴田様が引くことで、足が止まる。それだけのこと」
「私達はどうなるのでしょうか。別に何事も起こっておりませんが」
「加担しなかった。だから心配はいらぬ」
「しかし、いずれは柴田様が言っておられた春を迎えなければなりませんよ」
「春は勝手に来る。いずれな」
「柴田様は早咲きの桜なのでしょうか」
「寒くても先に咲く寒桜じゃろう」
 
   了


2023年3月13日

 

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