小説 川崎サイト

 

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川崎ゆきお



「体調は如何かな?」
「寒いとこたえますなあ」
「それで、あなたも、ここへ」
「お互いに」
「ここは暖房があって、しかも広いですからなあ」
「寒くて暗い道など歩けませんよ」
「はい、同意見」
「今日はどのコースで?」
「二階を一回りです」
「絨毯がいいですなあ。二階は」
「婦人服売り場ですからな」
「私はどうも気恥ずかしくてね」
「なあに、あちらの棟への通路があるでしょ。その通り道だと思えば、いいじゃないですか。別に婦人服を見にきているわけじゃなく、そこを通らないと行けませんからな」
「そうですなあ。エスカレーターもそこで途切れて三階へ行くためには、婦人服売り場をぐるりと回り込まないとだめですから」
「三階は、私もまだ挑戦しておりませんよ。一階から二階へジグザグに突き進み、最後はエスカレーターで降りてくるんですよ」
「それはすごい運動量ですなあ。歩数が稼げそうです」
「いやいや、もっと入り込めば、距離は延びますよ」
「水分の補給は如何に?」
「スーパーのレジ入り口の横でね、ミネラルウォーターが無料で飲めるんですよ」
「それは知らなかったです」
「給水所ですよ」
「他にもありませんか?」
「まあ、洗面所へ行けばいくらでも水は飲めますがね。やっぱり便所で水は飲みたくないでしょ」
「そりゃそうだ」
「給水所なら、紙コップがありますからね。水筒いらずですよ」
「しかし暖かいですなあ」
「防寒着いらずですよ。まあ、外は寒いですがな」
「歩いておると汗が出てきよります」
「この季節、外じゃ、汗など出ないでしょ。ここなら、暑いほどじゃ」
「いい汗かけますなあ」
「夜道の暗さと寒さに比べれば、理想郷ですなあ」
「常春の里山ですよ。ここは」
「そうですな。季節の移り変わりもよく分かります」
「クリスマスもまだなのに、正月飾りが始まってますぞ」
「見ましたとも。正月餅でしょ」
「そろそろ閉店時間ですな」
「明日は二十分を切りたいですなあ」
「自己新記録更新ですか」
「まあ、そんなところですよ」
「じゃ、また明日」
「はい、また」
 
   了



2007年11月27日

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