小説 川崎サイト

 

その時

 
「今はその時ではない」
「またですか。ではいつなのです」
「まだ、その時ではない」
「準備は既に出来ております。いつでも決行出来ます」
「それはご苦労」
「しかし、準備ばかりなので、痺れを切らす者もおります」
「その痺れを直すために決行するのではあるまい」
「その痺れではありません。按摩を呼んで治る痺れではありません」
「分かっておることをくどくど説明するでない」
「じゃ、いつなのですか」
「時節がある」
「既に過ぎているのでは」
「まだじゃ」
「今度で何度目ですか。いつもいつもその時ではないばかりですが」
「その時ではないので、仕方あるまい。急いては事をし損じる」
「もう遅くて取り返しがつかないのではありませんか。この前の時が、それだったのかもしれません。過ぎたのかも」
「まだ、来ておらん。その時はな」
「ではどういう状態がその時なのですか。何が揃えばいいのですか」
「説明させる気か」
「その時の時を知りたいのです」
「その時が来れば分かる」
「何を目安にそうおっしゃるのでしょうか」
「自ずと分かる」
「誰が」
「え」
「誰がですか」
「わしには分かる」
「私どもには分からないことですか」
「あなたは急ぎすぎる。よって早い目になる」
「早い目どころか、時既に遅しではありませんか」
「そのようなことはない。まだ来ておらん。まだ、時節到来ではない」
「それはいつまで待てばいいのですか」
「分からん」
「ずっと待ち続けないといけませんか」
「時が来るまではな」
「その時が来なかった場合、いかが為されます」
「待つしかない」
「本当にそんな時が来るのですか。来なければ、永遠に待ち続けることになります」
「そうじゃな、その時は世も変わっておるやもしれん」
「悠長な」
「その時が来れば知らせる。待つがよい」
「本当はそんな時などないのではありませんか」
「さあな」
 
   了

 


2023年3月15日

 

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