小説 川崎サイト

 

闇の夢

 
 闇の中でまどろんでいた。うたた寝だろうか。そこで浅い夢を見ていたのか、意識はある。これは夢だという。
 闇の中。だから暗い。真っ黒な夢。スクリーンいっぱい、端から端まで単色の黒。しかし塗った色ではない。漆喰の暗さではなく。なぜか空間があるように感じられた。つまり奥行きが。
 これは星のない夜空を見ているようなものだろう。
 ただ、暗いので何も見えないし、動きもない。そんな闇だけが見える夢。
 草加は、何だこの夢はと、突っ込んでみた。意識があるのだ。これは黒坊主ではないか。
 だが、目をこらして見ていると、何かが浮かび上がる。闇だと思っていたのだが、何かがある。
 ああ、これは夢ではなく、勝手に浮かび上がる何かだろう。目をつぶれば真っ暗になる。そのうち何かが浮かぶ。それだろう。すると、これは夢ではない。
 そこで草加は起きた。うたた寝だったので、半分起きていたので、すっと闇が消え、すぐに目を開いたため、室内が見えた。いつもの部屋だ。起きたとき、必ず見る部屋の一部。
 そしてさっと体を起こし、蒲団の上で座った。足は伸ばしている。両手で上体を支え、くるっと左へ半回転して、立ち上がる。
 変わったところはない。いつ寝たのかも覚えている。ほんの数分だったように気がするが、三十分ほど過ぎていた。寝る前に時計を見ている。
 起きたときの自分の部屋。その様子が変わっていたとすれば、それはまだ起きていないのだ。夢の中。
 変わったところは見付からないが、何となく疑う。これは余計なことで、しなくてもいい。いつもの部屋ではない場合を想定している。これが余計。
 違う部屋で目が覚めるわけがない。しかし、似ているが本当に寝る前と同じ部屋だろうかと敢えて疑う。どうせそんなことは起こらないので、安心して疑ったのだが、少しだけ不安がある。思い当たることが。
 それは先ほど見た真っ暗な夢。そんな夢など見たことは過去一度もない。あったとしても忘れている。
 夢がまだ始まる前の映像だったのかもしれない。真っ暗な映画館でも非常口とかの表示の明かりぐらいはあるだろう。
 それに照明を全部落ちてから映画が始まるまではすぐだろう。ずっと真っ暗なままではない。すぐにスクリーンが明るくなり、上映される。
 先ほど見た夢は、その僅かな暗闇の時間だったのかもしれない。
 これはうたた寝だったが、そのうち本当に寝入ってしまうはず。だから、うたた寝の手前だ。意識がまだあったのだ。
 そして、改めて部屋の中や家の中をチェックするが、変わったところはない。
 そして玄関先にある鏡。小さな丸い鏡だが、外出の時、一度だけ自分を見る。髪の毛が気になるためだ。
 その鏡を覗くと、草加が映っていなかったり、草加ではない別の人が映っていた、などということは当然ない。
 
   了 


2023年3月19日

 

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