無意識する
「石田が怪しい」
「石田部長ですか。次期社長と噂されています」
「まだ、部長になったばかり、まだまだ先」
「しかし石田部長に匹敵するような人はいないと思います」
「そんな器量はいらん」
「社長にですか」
「今の社長もそうだ。凡庸そのもの」
「しかし、石田部長が怪しいとはどういうことですか」
「ずっと彼を見ていた。残念ながら私より年下。それに私はまだ課長。これが長い。部長の椅子は遠いのに」
「御自身の話ですか」
「いや、違う。社のためだ、石田部長が怪しいのだ。このまま社長になると、大変なことが起こりそうな気がする」
「上に上がってはいけない人物なのですか」
「既に上がっておる。何度も言わすな。私よりも上だ」
「どうして怪しいのですか。そんな感じはしません。嫉まれる存在ですが、そういう噂は聞きません。石田部長の人柄でしょう。僕よりも年は下ですが、僕も何とも思いません。それだけの実力があるのですから。当然でしょ。出世しても」
「そうじゃないんだ」
「どういうことですか」
「私には何となくだが、分かるんだ」
「何が」
「だから、何となく、そう感じるのだ」
「どこで」
「私の無意識がそう感じておる」
「無意識って感じないものでしょ。感じられる無意識なら、それは意識ですよ」
「私の中のデータが、それを示しておるんだ」
「どんなデータですか」
「だから、感じなのだ。雰囲気なんだ。匂いなんだ。無意識から湧き出るデータでな。これは頭で考えたことより凄いんだ」
「つまり、無意識がそう思っていると意識されているのですね」
「ややこしい言い方だな。よう分からん」
「無意識のデータを意識できたわけでしょ」
「データというか、そう思えるような集まりだ」
「つまり課長が感じたのは課長が無意識だと意識したものを意識したわけで、全部意識の内なのですよ」
「いや無意識的だ」
「意識できないので、無意識ですよ。それが意識出来るのなら、もう無意識じゃありません」
「そういうややこしい話じゃない。君が課長補佐のままなのは、そう言うことを言うからだ。いちいち突っ込むな」
「あ、はい」
「どちらにしても石田部長は怪しい」
「怪しいのはあなたですよ」
了
2023年3月20日