小説 川崎サイト

 

島流し

 
 梅が終わり、桜が咲き始めている。
「来週あたり、もう花見ができるかと」
「梅か桜か桃か椿か薔薇かよう分からん奴だ」
「私ですか」
「君はすぐに分かる。君ではなく、芝垣だ」
「芝垣さんですか。そういえば百面相のように顔が合う度に違っていますね」
「そこまで変化せん。それじゃ化け物だ。しかし、得体の知れんころがあってな。わしとしてもどう判断すればいいのかが分からん。掴めぬのじゃ」
「百面相ではなく、八方美人ですね」
「美人じゃないが、相手により、人柄が変わる。合わせておるんだ。受けのいいように、相性がいいようにな」
「それで掴み所がないと」
「いったい何者だろう。あの芝垣は」
「普通の人じゃないですか。特にややこしい人間じゃありませんし、結構常識人ですよ」
「桜と思っておれば、梅だったことがある」
「分かりにくいのもありますからねえ。枝振りとか葉っぱを見れば分かるのですが、桜は咲くとき、まだ葉はなかったりしますが、幹で何となく分かりますよ。それに桜が多い場所で咲いていますし」
「桜並木の中に似たようなのが一本混ざっておるような感じだ」
「芝垣さんがですか」
「桜の話じゃないぞ」
「はい、分かっています」
「どうも得体が知れんので、信用ならん」
「先輩は分かりやすい人がいいのですね」
「そうだ」
「芝垣さんは分かりやすすぎるんじゃないのですか。私は芝垣さんは分かりやすいと思っています。芝垣さんが私に合わせて、私が思っている芝垣さんになってくれるからです」
「だから、そんな面妖なことをするから、信用ならんのだ」
「愛想がいいだけですよ。馴染みやすくしてくれます」
「しかし会議では無口だ。殆ど口を開かん」
「合わすターゲットが多すぎるからでしょ」
「だから、そのあたりがややこしいと言っておるんだ」
「それで、芝垣さんを移動させるわけですか」
「気に入らんからな」
「そんなことをすると、先輩は芝垣さんが苦手で、弱いということになりませんか。それに芝垣さん、大きなミスもないし、普通ですよ。そういう人を移動させていいのですか。ただの性格でしょ」
「いや、島流しだ」
「これで、何人目ですか。この前も薔薇だと思っていたら椿だと言って島村さんを島流しにしたばかりですよ」
「紛らわしい奴だったのでな」
「しかし、優秀な人は離島に集まっており、そちらの方が成績がいいのですが」
「ここには優秀な人間が残っておる」
「先輩も気をつけて下さいよ」
「何をだ。彼らから仕返しがあるとでも言うのか」
「いえ、先輩も流されないように」
「え」
 
   了



2023年3月22日

 

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