小説 川崎サイト

 

誘う神あり

 
 広田は勘で動くタイプだが、そんなタイプ別が色々とあるわけではないが、本能的な勘というものらしい。
 それは動物的なことなら機能するだろうが、人との関係での選択では、考えないといけない。
 二家ある。どちらかに組みしないといけない。これは考えれば決まることだが、決まらないことがある。
 そんなときは占いで決めてもいいのだが、それでは外れたとき、考えが足りなかったことになり、後悔する。しかし、充分考えた末、答えが出なかったのだから、何とも言えない。
 広田が迷っているとき、同輩の久保田や坂本も迷っていた。それほど、今回は難しいのだ。
 久保田はどちらに付くかの結論を出したが、その自信がない。坂本も同じ。そこで広田の出方を参考にすることにした。立場はほぼ同じ。
 広田家は長く続いている。そしていつもそれなりの地位にいる。ただそれ以上の位は無理なようだが、それなりに続いている。その間、どちらに組みするかの問題が何度も起こっていたのだが、その都度広田家は生き延びている。
 貧乏くじを引かなくても済んでいる。選択に間違いがなかったのだ。だから今回も広田ならいい選択をするだろうと、久保田も坂本も思っていた。
 久保田家も坂本家も、選択に二度か三度失敗している。一時は広田家よりも上だったが、今は同輩程度。選択を誤ったためだ。
 広田家がどうして安定しているのかについて、二人は不思議がったが、おそらく広田のカンが鋭いのだと思っている。
 広田は思慮深い人ではなく、深く考えない人。考えが浅いのだ。それなのに上手く選択している。
 広田家の庭に屋敷神いる。小さな祠があり、その屋敷神からお告げを受けているのではないかと考えた。
 選択を決めないといけない日がやってきた。単純にいうとどちらかの派閥に入ること。
 当日、二人は広田に尋ねた。どちらにするのかと。将来どちらが主流派になるのかと。
 広田は答えられない。広田も決めかねていたのだ。
 では、毎回毎回、何処で決めるのかと聞くと、誘いがあった側からだという。誘われたので、そちらに入ったと。
 では屋敷神のお告げはないのかと聞くと、ないと答えるし、またそんなものは信じていないらしい。
 積極的に自らが選んだのではなく、誘われて入っただけ。だから、あまり重くは用いられない。ただの数合わせのようなもので、一人でも組みする者が多い方が有利なため。
 だから広田家は安定しているが、あまり出世はしていない。
 二人は、広田の真似をすることにしたが、その現場で誘われたのは広田だけで、久保田と坂本には誘いはなかった。それで、自分で決めるしかない。
 勘でも動物的直感でもなく屋敷神でもなかった。
 
   了

 


2023年4月7日

 

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