小説 川崎サイト

 

炒り豆の剣

 
「認められたいか」
「はい」
「そのままでは駄目か」
「比べられてしまいます。吉岡の嫡子は頼りないと」
「頼りない?」
「はい。劣っていると」
「勝っているところもあるだろ」
「いえ、武術が大事です」
「其方、よく本を読む。そこでは勝っていよう」
「しかし、何の役にも立ちません」
「では、どうしたい」
「認めてもらいたいのです。周囲から」
「確かにそなたは強くはない。しかし実際に斬り合うような時代ではない。既に太刀など無用の長物。また戦があったとしても、鉄砲や弓。剣術など役には立たん」
「しかし、ここは剣術道場でしょ」
「食うためにやっておる」
「皆から認められれば、私は満足します。道場で一番弱いとはもう言われなくなります」
「何が望みだ」
「秘伝です。炒り豆の剣です」
「それを習いたいのか」
「はい」
「しかし、その剣、上級者に授けるもの」
「私にも授けて下さい。使いこなせなくても、そこそこ強くなると思います。少なくても、一番弱い弟子ではなくなります」
「不名誉か」
「はい、ここを脱したいのです」
「そのほうよりも弱い弟子ができる。下から二番目の佐久間が一番下になる。佐久間を引き摺り下ろすことになる。それでいいのじゃな」
「仕方のないこと」
「では、授けよう」
「奥義ですね」
「秘伝じゃ」
「私は何もしなくてもいいのですか。そんな簡単に教えてもらえるのですか」
「大した剣ではない。練習の必要もない」
「ここで授けてもらえるのですか」
「ああ、座したままな」
「お願いします。炒り豆の剣を」
 師匠は、炒り豆の剣を授けた。
 吉岡は炒り豆の剣を即座に習得した。
 その後、道場で二番目に弱い佐久間と闘い、勝つことができ、最下位から脱することができた。
 さて、炒り豆の剣とは何だったのか。
 
   了

 


2023年4月20日

 

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