小説 川崎サイト

 

怠け者

 
 怠け者で有名な田村だが、怠けることでは怠けていない。だから敢えて怠けているようだ。
 といって努力して怠けているわけではない。努力したり頑張ったりしないので仕事も遅く、やることなすこと遅れがち。それでも尻に火が点くとやり出す。
 この場合、努力の必要はない。自然とやってしまうためだ。その時は結構仕事が早い。これもその早さでないと、大変なことになるためで、急ぐ気が自然に生まれ、気が付けば素早くやっている。
 また、田村は怠けることに飽くことがあり、その時も自然に動いている。だから、怠け者と言っても世の中の片隅程度でなら何とか生きていける。最低限のことはしているためだろう。
「田村さん。怠けるのも大変ですよ。怠けようとしてもなかなか怠けられるものじゃありません。どうか、伝授を」
「いやいや、こんなものにコツなどありません。そのままにしているだけです」
「そのままでは止まってしまうでしょ」
「いやいや、殆どが言われるまま、請われるまま。これをこのままにしていることになるのです」
「成り行きに逆らわずですか」
「さあ、どうなんでしょうねえ。そのようになっているようなので、それに乗るだけですよ」
「じゃ、その流れに乗って、私に怠け方を伝授して下さい」
「ないです」
「それだけですか。話の流れは」
「怠けるのに理由はいりませんよ。そんな難しいことじゃない。一番簡単なことでしょ。安易すぎるほど安易」
「ああ、その調子で論を進めて下さい。聞きたいのは、そのあたりです。私の願いです」
「何か良いたとえ話があれば、面白おかしく聞いてもらえるのですが、どれも胡散臭い話ばかりで、その話の逆側が気になるほどです」
「それそれ、その難解さを続けて下さい」
「いや、だから簡単すぎて、それ以上掘れないのですよ」
「田村さんはいつも自然でおられる。そこも聞きたいのですが」
「私は不自然極まりのない暮らしをしていますよ。だから怠け者と呼ばれているのです」
「ああ、どちらが自然なのか、分かりにくい話ですね」
「怠けるのはいけない。それが答えですよ。全てですよ。一言で片付けられます」
「そんな単純なことなのですか」
「まあ、皆さんは怠けないように注意して生きているのでしょうねえ。心掛けが皆さんよろしい。私は悪い。ついつい楽な方へ流れます。これはおすすめできませんので、私の話など、参考にはならないでしょう。有害なだけ」
「最後に何か教訓を」
「怠けることを怠けると戻ります」
「そのままですね。何のひねりもない」
「はい」
 
   了

  


2023年4月26日

 

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