成り行き
川崎ゆきお
成り行きで何かをやってしまうことがある。いいこともあるし悪い結果になることもある。
成り行きそのものが計画性がないため、決定手段としては好ましくないのかもしれない。
「成り行き任せでは駄目なんでしょうかね？」
「自然な成り行きならいいんじゃないですか」
「自然だとは思えないんですよ。自然なら何も考えないで選択してますよ」
「じゃ、成り行きではないのではないですか？」
「成り行きっていうか、そういう段取りになってると嵌まりやすいんですよ。そういう流れになっているんです。別の選択肢だと流れを横切ったり、逆流する必要があるんです。そっちのほうが不自然と感じるのです」
「誘導されるわけですね」
「誘導されるほうが楽でしょ。答えはそちらにあると指示されているわけですから」
「まあ、事柄にもよるでしょうが、あなたにしっかりとした意志があれば問題はないと思いますよ」
「その意志を埋め込むだけの土壌がないのです」
「土壌？」
「意志という杭を打ち込む土が柔らかすぎて、グラグラしているし、すぐに抜けるんです」
「それは意志じゃないですね」
「そうです。確たる信念がないのですよ」
「だから、成り行きに任せるわけですね。それもまた方法の一つですよ」
「でも、最近、それではいけないのではないかと思うようになりまして」
「いいじゃないですか。今のほうがあなたは素直で、シンプルですよ。嵌まるべき罠に嵌まるほうが分かりやすいし、修正も楽ですよ」
「しかし、成り行きでは損をするんですよ。相手を喜ばすだけで」
「流れに身を任せるのは悪い方法ではないと思いますが」
「そうですねえ。私のような意志の弱い人間は、乗っかるほうが楽です」
「では問題はないでしょ」
「そうです。問題はないはずなんです」
「無理なさらないことですな。慣れないことは怪我の元ですよ」
「はい、そうなんですが、何か忘れているような」
「何でしょう？」
「何か言いたかったことがあったんですよ。忘れてしまいました」
「きっと大事なことじゃないのでしょう」
「はい、そうだと思います」
「どんな方法も大差はないと思いますよ」
「あ、はい」
了
2007年12月4日