小説 川崎サイト

 

仲裁

 

「このままでは争いになります」
「何とか避けねばのう」
「庄屋に動いてもらったのですが、無理でした」
「寺はどうだ。あそこには高僧がいる。仲裁してくれるはず。それにあの寺、どちらの勢力にも付いておらぬゆえ、中立。丁度いいではないか」
「話してみたのですが、関わりたくないと」
「あそこは修行の寺だからのう」
「世俗のことは世俗でと」
「では、間に入って止める者がいないではないか」
「領主様がおられれば、いいのですが」
「わしらが追いだしたではないか」
「そうでしたなあ。困りました。他国に頼るわけにはいきませんし」
「そうじゃ、長老がおる」
「あの人は隠居で、もうそんな力はありません。それに片方の人なので、中立ではありません」
「中立でなくてもいいではないか。あの長老、人格がある。徳がある。人望もある。長老に纏めてもらおう」
「体がきかないようです。寝床まで双方が来てもらえれば、口だけはきけるとか」
「動けぬのか」
「動けますが、出掛けるのは控えたいと」
「じゃ、長老にも掛け合ったのだな」
「一応は」
「それで、もういないというわけか」
「一人いますが。どうなんでしょう」
「いるのか」
「竹原様です」
「竹原家に頼むのか」
「元々はこの一帯は竹原家のもの。それを奪ったのは前の領主です。一応竹原様なら中立」
「争いにならぬ前に、お頼みせよ」
「はい、すぐに」
 
「どうじゃった」
「無理とか。その力はもうないとか。あるのなら、この地、取り返してやると」
「それは藪蛇じゃ。しかし、竹原家を残しているのは、こういうときのためじゃ。最後の切り札としてな。竹原一族はなに不自由なく暮らせているはず。それを支えているのは我らじゃ。こういうときに、仲裁に入ってもらわんとな」
「でも無理です」
「どうしてじゃ」
「だから、今回の争いを利用して、竹原家は元の鞘に戻りたいのでしょ」
「じゃ、竹原を引き込もう」
「そんなことをすると、本当に戦いになりますぞ。それなら勝てるので」
「分かった。竹原は無視しよう。それにそんな力、もうないはずだしな」
「では、どうしましょう。このままでは戦いに」
「仕方がない。わしが出向くか。相手側にも争いは避けたいと願っておる者がいよう」
「最初から、そうすればいいのに」
「え、まあな」
 
   了


  


2023年5月28日

 

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