小説 川崎サイト

 

どっちゅう

 

「また雨ですねえ」
「梅雨じゃないですか。田に水も入っていますよ。田植えと言えば梅雨」
「台風の影響かもしれませんねえ。ちらっと天気予報を見ると、近付いています。大型じゃないですが、ゆっくりです。これの雨かもしれませんよ」
「梅雨に台風。まあ、春にも発生しますが、季節に合いにくいです。やはり台風は秋が本番。夏台風もありますが、これは涼を招くので、歓迎。しかし、滅多に来ません。ずっと暑いばかりでおしめりが欲しいところ。それに比べ、梅雨時の台風って、何でしょうねえ」
「台風に聞いてみないと分かりませんよ」
「田植えで雨は欲しいところですが、梅雨時期なので、雨は足っている。それに梅雨の雨か台風の雨かが分かり難い。どちらにしても台風は紛らわしい」
「風があるかもしれませんよ」
「台風じゃなくても、この前まで強い風が吹いていましたよ。下手な台風よりも強かった」
「じゃあ雨も風も足っていると」
「この雨、台風が持ち込んだ雲じゃなく、梅雨頃よくある雲ですよ。それが台風で刺激を受けて、活発になった。従って、これは台風の雨ではなく、梅雨の雨の部類ですなあ」
「まあ、雨は雨ですし。風は風ですから、どちらでも同じことですがね」
「そうですねえ。しかし、雨が降っているときは風は弱い。治まっています。雨は真上からシトシトと。しかし、台風のときの雨は風も伴う。ここが違います。雨と風、両方来ます。梅雨の雨は雨だけ」
「詳しいですねえ」
「いえ、ただの体験です。そんなパターンがあります」
「まあ、台風が来ているときは、外に出ませんので、大丈夫ですよ。梅雨の雨は穏やかなので出ますがね。今日のように」
「シトシト降り、いいですなあ。長く降るので、調整しているのかもしれません。どっと降ると足りなくなりますからね」
「本当ですか」
「嘘です。しかし、そんな年もありますよ。降りすぎて枯れてしまったような」
「空も水不足ですか」
「あったのに、一時に出してしまったんでしょう。よくあるでしょ。一日で半年分の雨量に匹敵するとかを」
「またできるんじゃないですか。雨は」
「それでも雲不足。使い切ったので、溜まるまで時間がかかる」
「本当ですか」
「嘘です」
「しかし、本当かもしれませんねえ。当たっているかも」
「当たっていても外れていても、どっちゅうことないですよ。大した問題じゃない」
「どっちゅうですか。ドジョウがいるのかと思いましたよ」
「どうということもないという意味です」
「本当ですか」
「本当です」
 
   了


2023年6月1日

 

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