小説 川崎サイト

 

緑の軍団

川崎ゆきお



「寒いですなあ」
「冷える夜は見回りも大変だよ」
「今夜は何人参加ですかな」
「五人だと思いますよ」
「やはり寒いと出にくいのでしょうな」
「詰め所でじっとしとるのでは見回りになりませんからなあ」
「昔は火の用心だけでよかったんだけど、最近は不審者がどうのと、用事が増えましたなあ」
「じゃ、そろそろでかけましょうかい」
「沢村さんがまだですが」
「寒いので、引っ込んでるのでしょ」
「じゃ、この四人で」
「私だって、出ない日が多いですよ」
「夜はだめですなあ。厳しいです。昼間子供の立ち番ならいいんですがね。夜は冷えるの一言ですよ」
「登録しとる人は二十人はいるのでしょ」
「協力者でしてな。実行部隊はもっと少ないですよ。だから、五人です。五人」
「じゃ、いつものメンバーと同じか」
「今夜は四人ですがな」
「そうそう、沢村さんを忘れておりました」
「四人でも多いですよ」
「金魚の糞みたいにね」
「そう、ぞろぞろと歩くだけですがな」
「でも、この緑のジャンバー、寒いですよ」
「自治会の経費で買ったもんだからね。着ないと叱られますよ」
「でも、これ、ナイロンの薄いぺらぺらで」
「私なんか、下に毛糸の分厚いの着込んでますよ。シャツは二枚でね。しかもカイロも貼り張り付けてますよ」
「じゃ、行きましょうか」
「どこへ?」
「見回りですよ」
「ですから、どのコースです?」
「表通りの明るいところがいいでしょ」
「そう願いたいなあ。この前のように裏道に入るのは危険ですぞ。暗いですしね」
「あのねえ」
「何でしょ?」
「行ったことにしませんか」
「そりゃ駄目ですよ」
「だって、不審者なんていないですよ」
「そうじゃなく、牽制になるんですよ」
「その論は聞きましたがね。私らが見回っていることで、大したことないと甘く見られて、逆効果じゃないですか」
「木村さん、あんた、行きたくないから、そんなこと言い出すんだ。町内の安全に我々有志は貢献してるんだ」
「もういいですよ。寒いから、今夜は勘弁してください。腹が冷えると下痢するんです」
「腹巻きにカイロを入れるんだよ。忘れましたか木村さん」
「じゃ、失敬」
「これで、三人か」
「私ら見回り組を見守ってくれる部隊が必要ですなあ」
「どうせ、何もありゃしないんだから、出発しましょう」
「いざ、出陣」
「はいな」
 
   了


2007年12月7日

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