小説 川崎サイト

 

サビスします

 

 壊れそうになっており、これは時間の問題で、最悪のことになる。しかし、持ちこたえるかもしれないと思い、下村はそのまま放置していた。
 まだ使えるので困らないが、かなりギクシャクしている。
 そして、もう一段悪くなり、これは末期状態。そのあと壊れて使えなくなる。これはいよいよ来たなと下村は思っていたのだが、ある日、同じことをすると、すっと行く。戻っている。治っているのだ。
 下村は不思議なこともあるものだと、一寸驚いたが、それ以上にほっとした。この問題から解放されそうなので。
 しかし、ある日、急に悪くなり、また急に良くなったのだから、また同じことが起こる可能性がある。どういう仕組みでそうなったのか、原因も分かっていないし、どの箇所が駄目になっていったのかも分からない。
 おそらく全体的なガタつき。ひずみ、そして劣化。そのあたりだろうと思うものの、特定できない。それなりに、調べてみたのだが、よく分からない。何処かがうまく填まっていないのかもしれない。外れているとか。
 ギクシャク感から察すると、それがある。だがその箇所は外からは見えない。ただ、隙間からは見えるが、よく分からない。
 それがある日、何もしないのに治っているのだ。今まで考えた原因は何処かへ行ってしまった。自然に治っているのか、何かの弾みで、引っかかっていたものが取れたのだろうか。
 そういえば最近動きが悪いので、かなり力を入れている。やったことと言えばそれだけ。力を加えすぎて、戻ったのだろうか。仕掛けたのはそれだけなので。
 勝手に悪くなったのか、原因があったのか、それは分からない。しかし勝手に悪くなり、勝手に良くなっている。
 もし勝手に悪くなり続けているのなら、その延長がある。その先だ。つまり、まったく動かなくなるとか。
 勝手に悪くなったのかどうかは分からないが、勝手に良くなっている。これは何だろうかと下村は考えた。
 世の中には勝手に治っていることがある。しかし、今回の場合、自己回復力があるとは思えない。ただの物理現象なので。
 人は絡んでこないし、生命も絡んでこない。生き物ではないのだ。
 しかし、勝手に治っていたのだから、苦労はない。下田は一寸だけいい気分になった。このままだと面倒なことになるところだったので。
 そしてキーワードとして勝手に治っているとなる。そういうこともあるのだろうが、全てではない。きっと何かの偶然が重なり、元に戻った。ただ、ギクシャク感はまだ残っている。だから一寸前の状態まで戻った程度だが。
 何かよく分からないものは、そのままにしておいた方がいいような気がするが、ものによりけりだろう。
 しかし、今まで駄目だったものがある日、治っていたというのは不思議な話だ。きっと原因があるのだろうが、知るよしもない。結果オーライで、治れば、もう考えなくなる。
 失ったものが戻っている。何もしなくても。これはどういうことだろう。
 何もしない方がよくなるという教訓は流石に導き出せないが、目に見えないものからのサービスかもしれないと思い、特殊な例として記憶することにした。
 
   了


2023年6月2日

 

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