小説 川崎サイト

 

旧家

 

 大崎の家は特別な家として存在していた。大きな家であり、旧家。
 元々はこの村を拓いた一族だが、移住してきた百姓だ。しかし、その地を開墾し、村を作った。その時、大崎家が活躍した。何もない土地を切り開いたのだから、それが遅れると、収穫はない。大崎はそれにこなれていたのだろう。
 そして大崎家と一緒に来た他の一家もそこで繁栄した。戸数も増え。されに田畑も広げた。言うことはない。ここまでは大崎家の全盛期で、縁者も増えた。村民も増え、大崎家はずっと村長のような位置にいた。
 そこに、新手の人達が入ってきた。武装しており、まるで村を取りに来たようなもの。ただ、村人の方が数が多い。
 要するに、この村に住まわせてくれという単純な話だ。それに裕福な村になっていたため、養うことはできるが、そんな武力集団は村では必要ではない。
 だが、彼らは村を守る役目があると説明する。さらに彼らは百姓ではなさそうで、その仕事はしない。
 さらに、村長になりたいと大崎に迫った。もっと村を発展させ、拡大したいとのこと。
 余程、この地が気に入ったのだろう。
 大国主命の国譲りのように、村譲りを迫ったのだ。要するに乗っ取りだ。
 その連中よりも村人の方が多い。戦えは何とかなるだろうが、村内でそんなことをしても仕方がない。何も得るところがないので、大崎は村を譲った。
 その後、その連中が村を仕切った。
 そのあとの時代が長い。その間、大崎家も生き延びている。また、あのときの武装した連中も村に馴染み、親戚になる。もう村人と変わらなくなっていた。
 その大崎家はその後も特別な家として、存続し、何代も経つが、他の村人から一目置かれていた。ただ、力は何もない。しかし、この村を最初に拓いた家なのだ。
 その後、時代は変わり、今となる。その村は住宅地となり、村は崩壊した。
 昔からいた村人よりも、新たにここに来た人の方が遙かに多い。さらに高層マンションが建ち並び、余所者が圧倒的な数になる。
 大崎の名さえ知らない住民が殆どで、元村民が知っている程度。
 あの頃、村を奪われたのだが、それを奪った連中はこの地方に勢力を誇ったが、より大きな勢力に滅ぼされ、その後、どうなったのかは分からない。
 大崎は、その地でまだ旧家として残っている。
 
   了



2023年6月3日

 

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