小説 川崎サイト

 

双子山

 

 おかしなことがあるものだと作米は不思議がっている。きっと何かの錯覚だろうが、そんな錯覚が起こることが不思議なのだ。
 実際におかしなこと、怪しいことが起こったわけではない。だから作米の頭の中で起こっただけのこと。しかし、どうしてそんなものが浮かんだのだろうと思う。
 双子山が小さく見えている。似た形の二つの山がコブのように並んでいる。それが三つあったのだ。
 次に見たときは二つに戻っていたが、最初から二つだろう。
 それよりも、何故双子山でそうなり、他のことではそうならなかったのかが気になった。双子山は村から遠い。彼方にある山たが、里からでも見えている。高くはないが、その輪郭がちょうど里からだと並んでいるように見えるが、実はそうではない。
 西双子山の後の方に東双子山がある。だから同じ高さに見えるのは後ろの東双子山の方が高いのだろう。そしてボリュームも大きい。ちょうど手前の西双子山をそのまま大きくしたように。
 だから双子山は双子山ではない。駱駝のコブのように並んでいるわけではないが、里からはそう見える。
 作米は双子山に何かあるのではないかと勘ぐった。しかし、行ってみるまでのことではない。それに本当に双子山が三つあったわけではない。脳裡にそう浮かんだだけで、錯覚と言うよりも、夢を見ていたようなもの。
 現実と非現実との違いは分かっていたので、ただの幻として済ませるのがいいだろう。
 だが、作米は気になる。実際に起こったことではないのだが、頭の中では起こっている。そして何故双子山が三子山になったのか。。
 しかし、そんなことは人には言えない。また言っても狐にでもつままれたのだろうと返される程度。
 だが、村に一人だけ変人がおり、この手の話を幅広く知っている人で、普通に聞いてくれる。分かる分かると。あるあると。
 しかし、寛容力がありすぎて、何でもありになり、信用できないし、本気で聞いているのかどうかも分からない。
 しかし、試しにその変人を訪ねた。
「双子が三つ子にかね」
 すんなりと聞き、すんなりと受け取ってくれた。
「あることですか」
「あるある」
 また、この変人のあるあるが始まった。やはり聞き流しているのだ。
「どういう現象でしょうか」
「聖山を見たというべきかな」
「双子山ですか」
「三つ目の山が聖山。これは滅多に姿を現さない」
「はい」
「聖獣のようなものでな。麒麟とか龍がそうじゃ」
「それの山版ですか」
「そうじゃな。しかし実際に麒麟がウロウロしたり、龍が飛び回っているわけではない。いずれも頭の中での話」
「そうです。そんな幻を見たのです」
「聖山を見たとなると、これは感じたということじゃ」
「何か起こりますか。または予兆ですか」
「そこまではわしも知らん。双子山にはそんな言い伝えはないしな。それに見えたり見えなかったりする山の話はのう。まあ、お化け山かもしれんがな。しかし山では難がある」
「難」
「物が大きすぎるのじゃよ」
「でも双子山は遠くから見ると小さいですよ」
「まあ、そうじゃが。山は動かん。山は化けん。これが動くと大異変」
「じゃ、私はどうすればいいのですか」
「偶然脳裡にそんな絵が浮かんだだけ。それだけよ」
 あっさりと済まされてしまった。この変人、意外と常識家だったようだ。
 
   了


2023年6月7日

 

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