小説 川崎サイト

 

了解しました

 

「若いころはわしもとがったものをやっておったが、年をとると、それが恥ずかしゅうなってきてな、その頃に比べると大人しくなったよ」
「僕もそうなるのでしょうかね。じゃ、最初から大人しくしておればいいのですね」
「血気盛んで勢いがある時は大人しいものでは退屈するはず。もっと凄いことを望むのが若者の特権。それで新たな世界を切り開いたりできる。今もこの道で有名な人も二十歳代にもう完成していたんじゃよ。それから先はあまり進展はない。だから若気に任せて尖ったものをやるのが良い」
「じゃ、今のままでいいのですね。別に先読みして大人しいものを若い内からやらなくても」
「そうじゃな、若年寄のようなものなのでな。やはり若さが欲しいところ。最初から年寄りのようなことをしていてはな。これはいずれそうなるので、目指さなくても良かろうて」
「でも老いてなお尖ったものをやっている人もいますよ」
「見苦しいのう。しかし、尖っているように見えても古い尖り方じゃな」
「でも、大人しくはないです。そういう道もあるのですね」
「しかしのう、尖っているが、尖っている先っぽは丸みがあったりする。切れが悪くなっておる。大人しくなったとみるべきだろう」
「先生は昔と全く違い、大人しくなられた。これは決めてやったことなのですか」
「いつの間にかそうなっておったが、本当は大人しくはないんだよな」
「大人しいですが」
「内に尖ったものが入っている」
「気が付きませんでした」
「若い頃はもっと暴れたいものじゃ」
「僕がその頃です。あ、今です」
「だから、そのままがいいんじゃ、尖っておるとか大人しいとかを意識せずにな。そういうことでやるのではなく、自然とそうなっただけ。まあ、いろいろと考えるものなので、自然にはいかんがな」
「はい、参考になりました」
「まあ、人からそんな話を聞いただけでは身につかん。知っているだけで終わる」
「はい、了解しました」
「すぐに了解する。それはしていないのに等しい」
「はい、了解しました」
 
   了


2023年6月8日

 

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