小説 川崎サイト

 

狐の嫁入り

川崎ゆきお



 陽が出ているのに雨が降っている。
 狐の嫁入りだ。
 化かされたように思うのは、晴れているためだ。
 しかし雨が降っているのだから晴れではない。
 それまで晴れていたのに、いきなり雨が降る。だが、相変わらず陽は出ており、空も青い。
 これを昔の人は狐の嫁入りと言った。
 昔は花嫁行列があった。主人公は花嫁だ。
 その花嫁をよく見ると顔が狐なのだ。
 めでたいハレの行事にケガレたケモノが乗っているのだ。
 よく見ると行列全員が獣だったりする。
 清原は子供のころに聞いた狐の嫁入り話を鮮明なイメージとして記憶していた。
 生まれてこのかた本物の狐を見た経験は動物園で数度しかない。だが、それは清原がイメージしている狐とは掛け離れていた。
 清原の狐はお稲荷さんだ。近所の神社にあった石像や、狐の置物だ。
 赤い口、鋭い目。見ているだけで恐ろしくなった。その印象が花嫁の顔に転写された。
 清原が勝手に作った映像なのだが、それが今も焼き付いている。
 その狐の嫁入りに清原は遭遇した。
 晴れているのに雨に遭ったのだ。
 雨というほどの雨量ではない。ぱらぱら降っただけで、すぐにやんだ。
 清原は住宅地を走る幹線道路の歩道を歩いていた。
 そこに狐の嫁入り行列も降ってきた。清原が降らしたのだ。
 村の畦道をゆく花嫁行列とはイメージが違う。
 それだけに行列は際立ち、不自然な組み合わせとなった。
 田園地帯をゆく狐の嫁入りなら、騙されたかもしれないが、背景がこうまで違い過ぎると、化かされようがない。どう見ても不自然だからだ。
「そうか、自然さがあれば騙せるか」
 清原は自分がこれまでやってきたインチキビジネスを思い起こす。
「失敗したのは不自然すぎて看破されたからなんだ」
 清原は狐の嫁入りに遭い、それを啓示と受け止め、新たな騙し方を模索し始めた。
 その顔を見た人はきっと驚くだろう。
 顔が狐と瓜二つになっているからだ。
 
   了

 


2007年12月9日

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