天ザル
川崎ゆきお
「最近、外食しとるようだな」
「以前からですよ」
「食堂でよく見かけるぞ」
「食堂？」
「食堂じゃよ」
「食堂って何ですか？」
「食べるところだ」
「範囲が広いですねえ。ファミレスも食堂ですか？」
「ああ、食堂だろ」
「どこで、見かけました？」
「駅前の蕎麦屋だ」
「たまに行きますが。あれも食堂なんですか」
「そうだ」
「声をかけてくれればいいのに」
「無心で食べていたようなので、邪魔すると悪いと思ってね」
「猫じゃあるまいし」
「あれは、何だった？」
「天ザルです」
「豪華だな。あの店では一番高いんじゃないのかい」
「上天ザルがまだありますよ」
「じゃ、それに次ぐ品じゃ」
「それほど高くはありませんよ。安っぽい店ですから」
「天ザルを食べるとは結構な身分じゃないか」
「いつもは自炊ですよ」
「儲かってるんじゃないのか？」
「そんなことありません。ギリギリです」
「ギリギリでは天ザルは食べられまい。余裕の産物じゃないのか」
「たまには、そういうの食べないと、滅入りますよ」
「儲かっているのなら、援助はしないぞ」
「叔父さんの援助で、生きているのですから。そんなこと言わないでくださいよ」
「働きに出る気がないのは、まあ、諦めよう。そのかわり、一人でできる仕事を見つけてくれればと期待しとる」
「感謝してます」
「それで、どうなんだ？ 仕事は順調か」
「まだ、見つけていません」
「部屋にいたのでは見つからんだろ」
「ネットで探してます」
「私も無職だ。私にもできる仕事はないかな。」
「叔父さんは働かなくてもやっていけるんでしょ」
「何か仕事をやっとらんと退屈でしかたがない」
「見つかれば、知らせます」
「私もパソコンをやってみるかな。本当にネットを使うと仕事が探せるんだな」
「はい、情報時代ですから」
「それで、買ってやったのだが、なかなか見つからんじゃないか」
「なかなか、いいのがなくて」
「まあいい。しかし…」
「はい…」
「天ザルは駄目だぞ、天ザルは」
了
2007年12月11日