小説 川崎サイト

 

夢想世界

 

 遙か彼方。日常からかなり離れた世界。それは現実の世界とは限らない。ただの夢想の世界で、吉原にしか見えていない。
 ただ、似たようなものを見ている人もいるだろう。ただし、その夢想の世界、吉原にとって都合よくできている。他の人の場合でもそうだろう。
 夢見た人だけに都合が良く、夢見た人にとって都合の悪いところは消されているか、もしくは存在しない。ないのだ。
 それが普通の世界、世間のようなものとは違うところ。夢想者にとっては居心地がいいが、たまに夢想するためだ。ずっと居心地がいいと、退屈してしまうだろう。
 吉岡はたまにその世界に入る。吉岡が想像したフィクション世界だが、何幕もあるようで、また何本もあるようだ。つまり、夢想世界が複数ある。最近できた世界もあるし、昔からある世界もある。また、もう見なくなった世界もある。
 吉岡がよく見るのは当然最近夢想した世界。最近の事情を反映しているためだろう。
 ただ、この夢想世界、ただの想像だが、たまに現実とも絡んでくる。糸が付いており繋がっているのだ。
 吉岡がたまに突拍子もないことを言うのは、その糸があるため。夢想世界から下りてくる。
 ただ、現実とのギャップが強いと、それはとんでもない話となり、通用しないが、内に含ませておけば目立たないので、バレない。
 吉岡がたまに意味不明なことを言うのは、そのためだろう。ただ普通のことを言っているので、問題はないのだが、その意図が分からないということ。
 では、その夢想世界、何処から来るのだろう。当然吉岡が想像した夢物語の世界なので、犯人は吉岡だが、実は吉岡のオリジナルではない。何処かであった夢物語を模し、吉岡流にアレンジしている。そのオリジナル版も、誰かが作ったものだが、それもまた誰かのものの焼き直しだったりする。
 さらにさらに遡っていくと、分かりやすいのは神話だろう。ただ神話にも作り手がいる。作り手の都合を反映しているはず。
 ただ、そこまで遡らなくても、夢想世界は適当に発生する。ああだったらいいのに、こうだったらいいのにとかの日常から。
 吉岡の夢想世界もそのタイプで、物語の形は借り物だが、その発生源は吉岡の気持ちのようなところから湧き出している。
 温泉のように、夢想世界も湧き出すのだろうか。
 
   了

 




 


2023年7月12日

 

小説 川崎サイト