小説 川崎サイト

 

失ったもの

 

 気になっていたことが解決し、島村はほっとした。その、気になることがずっと離れず付きまとっていたわけではなく、なるようになると、もう考えないようにしていた。
 しかし、どこかスッキリとしないものがあったことは確か。今すぐ困ることではないので、もう放置していてもかまわない。
 その気になること。一度は果たせて喜んだのだが、なくしていたものが戻ってきただけで、新たに得たものではない。
 だから、最初にそれを得たときに戻ったのだが、これがあまりよくなかった。良い事なのだが、それを実行しないといけない。
 ただ、持っているだけでは意味はない。権利を得ただけと言うこと。権利と言うほど大袈裟なものではなく、人は絡んでこないのだが、実行出来る条件は揃っている。しかし、それを果たしていくのが面倒。
 だから、戻ってきたのはいいのだが、持っていたときと同じ状態になる。
 しかし、それは島村にとり価値があることで、得たことの喜びは大きい。
 だから、失ったときは気が沈んだ。そのため、戻ってきたときは喜んだのだが、また、同じことになる。いっそのこと得なければ良かったとなるが、そこまで淡泊ではない。やはり得たことのメリットは絶大。
 ただ、それを実現させていくのが面倒なだけ。だから贅沢な悩みかもしれない。簡単には手に入らないものなので、有り難い話だ。
 それを失ったとき、島村は積極的に働きかけなかった。逆に清々した感じになったが、これは負け惜しみのようなもの。なかった方がよかったのだと、自分を説得しているだけ。本音はやはりあった方がいいに決まっていた。
 しかし、面倒なので、そのまま放置していた。すると、時期が来たのか、戻ってきた。何も働きかけていないのに。それはそうなるようにできていたのだろう。いずれ戻ると。
 必死で取り戻そう。取り返そうとした場合、逆に出たかもしれない。
 島村は、それで気になることが消えたので、いい日だった。こういう日がもっとたくさん来ると嬉しいのだが、そうはいかない。
 そういういい日があってから、今度は悪い日が続いたわけではないが、あのときの喜びはもう消えている。その余韻も終わったためだろう。しかし、思い出すことはできる。あれはいい日だったと。そして上手くいったと。
 その後の日々は、先ほどの気になることが消えたので、それなりに気掛かりの常駐が減ったので、楽になった。これだけでも失ったものを得たよりもいいかもしれない。しかし、失わなければ戻ることもないのだが。
 
   了



 


2023年7月16日

 

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